『ビジネス数学の第一人者が教える 史上最高にわかりやすい説明術』
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相手に伝わる説明のコツ「いきなり始めてはいけない」ことは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『ビジネス数学の第一人者が教える 史上最高にわかりやすい説明術』(深沢真太郎 著、秀和システム )の著者は、数学的なビジネスパーソンを育成する“ビジネス数学”を提唱し、多くの人々を指導してきた「ビジネス数学教育家」。
過去にも著作をご紹介したことがありますが、新刊である本作では「説明の仕方」をテーマに掲げています。つまり、これまで手がけてこられた「数学の本」とは少し趣が異なるのです。
ところで著者は、講師として登壇する講演や研修などにおいて、「とてもわかりやすかった」といわれることが多いのだそうです。
数字で表現するなら、全参加者のおよそ80%以上の人がそういった感想を持つのだとか。だとすれば、そこには秘訣のようなものがありそうです。
その秘訣とは、私が学生時代から数学を指導する経験によって蓄積された「わかった」(つまり理解できた)を生み出す方法論であり、本書において、そのノウハウを体系立てて余すところなくお伝えするものです。
(中略)断言します。 「説明」は、必ずうまくできるようになります。(「はじめに」より)
こうした考えに基づく本書のなかから、きょうは第4章「うまい人は、始め方が違う」内の「いきなり説明を始めてはいけない」に焦点を当ててみたいと思います。
説明を始めるときに大切なこと
説明を始める際、多くの方は「では、始めます」というようなフレーズを枕詞にし、用意しておいた説明をいきなり始めるのではないでしょうか?
それはきわめて一般的なスタイルでもありますが、「いきなり説明を始めてしまう」という方法を変えてみてほしいのだと著者はいうのです。
だとすれば具体的にどう変えればいいのか? その問いに対する答えが、次の1行なのだそう。
わからないことを聞く人の心理を推しはかる。(159ページより)
当たり前のことではあるものの、これを動作で表現している人は少ないというのです。
当然のことながら、「説明できる」とは、説明する内容を「理解している」ということ。ところが相手は、その説明を初めて聞くわけです。
しかも説明されているということは“理解されることを期待される”ことでもあるので、相手は「自分も説明できる状態にならなければ」と思いながら聞いているわけです。
それは自覚的なものではないかもしれませんが、とはいえ説明を聞く人の心理とは、本質的には次のようなものなのだといいます。
いきなりわからないことを聞かされて、その内容を他の誰かに説明できるよう理解しなければならない。(160ページより)
しかし、これはとても難しいことなので、大きなプレッシャーやストレスになってしまう可能性があります。あるいは、「そんなの面倒だからいいや」と、説明を聞かないスタンスになってしまうかもしれません。(158ページより)
説明が上手な人が知っていること
でも説明が上手な人は、そのことがわかっているもの。そこで、用意したものを伝える前に“ちょっとしたひと仕事”をするのだそうです。しかも、それは説明を聞く相手のプレッシャーやストレスを軽減してくれるというのです。
「面倒だからいいや」ではなく、「そういうことならちょっと聞いてみようか」と思わせることができ、だから“相手に届けるべきもの”を確実に届けることができるということ。
だとすれば、説明を聞く前の相手が、どんなプレッシャーやストレスを抱えているのかを確認しておく必要がありそうです。著者によれば、それは以下のようなこと。
・時間に関すること
「この話、どれくらい時間かかるんだろう……長い話はイヤだなぁ」
・内容に関すること
「この話はどんな展開で進んでいくんだろう……ついていけるか不安だなぁ」
・情報量に関すること
「一字一句、ぜんぶ聞いてぜんぶ理解するなんて無理だよ……」
・必要性に関すること
「そもそも自分はこの説明を聞く必要あるの? 自分に関係ある内容なの?」
・前提に関すること
「その話における自分と相手の前提は、ちゃんと一致しているのかな?」
・気分に関すること
「あー疲れたなぁ、めんどくせーなぁ。俺こいつ嫌いなんだよなぁ」
(以上、161〜162ページより)
これらが“わからないことを聞く人の心理”。つまりは話の冒頭にこう感じさせないことが重要で、だからこそ「そのためにはどうしたらいいのか」を考えればいいのです。
以後では、そのための方法が具体的に紹介されていますが、この心理を理解しておくだけでも説明は楽になるかもしれません。(160ページより)
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「説明」は必ずうまくできるようになるものであり、まず大切なのは「自分も同じようにできるようになる」と思うこと。著者はそう主張しています。
「説明」に自信が持てるようになりたいのであれば、その考え方を信じ、本書を参考にしてみる価値はありそうです。
Source: 秀和システム