<東北の本棚>地道な観察 貴重な知見

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

<東北の本棚>地道な観察 貴重な知見

[レビュアー] 河北新報

 秋、東北各地の湖沼は、大陸から越冬のためやってきた渡り鳥の群れでにぎわう。ガン、カモ、ハクチョウ…。無数の鳥たちを前に、多くの人は「何をしてるんだろう」「何を食べているのだろう」と思うのではないだろうか。

 本書は、そうしたガンカモ類の生態に詳しくない市民向けの入門書の体裁を取る。形態の特徴に始まり、種ごとの渡りの様子、繁殖・越冬地での暮らしを平易な文章で解説している。

 調査によるオオハクチョウの最長生存期間が23年であることや、一夫一妻のガン・ハクチョウ類に対し、カモ類は冬のたびに、新しい相手を見つけるといった、意外と知られていない生態に関するトリビアが数多く掲載されている。

 だが、本書の姿勢は野鳥初心者の初歩的な疑問に答えるだけにとどまらない。著者の30年近い調査研究生活で得た貴重な知見が随所に登場する。生息環境の保全、モニタリング調査の仕方など、内容の充実ぶりは、研究者を目指す学生向けの専門書ではと思えるほどだ。

 特に、宮城県の南三陸で越冬するコクガンの衛星利用測位システム(GPS)を用いた追跡調査の記述は、地道な試行錯誤を積み上げる研究者の日常が垣間見られて興味深い。送信機を装着しようと、海藻を食べるえさ場での捕獲の試みが、警戒されて失敗する。困難続きの中、著者はコクガンが真水を飲む行動を発見。水飲み場にわなを仕掛けることで捕獲に成功する-といったくだりは、研究者にとって観察がいかに大切かということを教えてくれる。

 著者は、宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団の研究室長。野鳥の生息環境保全のため、地域の農業被害対策や、富栄養化が進む沼の水質を改善する機器の開発にも積極的に関与する。地域に根差した研究者の、専門分野を超えた全方位的な活動を記した一冊だ。(三)

 緑書房03(6833)0560=2090円。

河北新報
2021年11月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク