ミステリファンは胸アツ 解題、解説、セレクトも充実した往年の名作復刊事情

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ミステリファンは胸アツ 解題、解説、セレクトも充実した往年の名作復刊事情

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

〈加賀美捜査一課長全短篇〉の副題のある角田喜久雄『霊魂の足』を手にとって、ためつすがめつしていたら、小説の本文にとりかかるまでに一時間以上もかかってしまった。

 それは、小説以外の、作者の手による“加賀美もの”に関するエッセイやら、その後に収められた藤原編集室による詳細な解題、そして巻末の末國善己の丁寧な解説などに目をやりながら、昔はこんな便利な一巻もなく、“加賀美もの”読みたさに、角田喜久雄の探偵小説本を古本屋で漁っていた頃のことなどを懐しく思い出していたからである。

 だから、巻頭に収められた「緑亭の首吊男」の「午後六時、緑亭に灯がともった」という書き出しに接したとたん、加賀美と再会するのは何年ぶりだろうと、柄にもなく胸がいっぱいになってしまった。

 巨漢でビール好きの加賀美が作者のG・シムノン好きから生まれたメグレ警視の眷属であることは有名だが、日本では謎ときミステリの中でメグレの活躍が読めるのだから、嬉しい男もいたものである。

 そんな加賀美の活躍を読んだことのない方には、とく書店に走られることをお勧めする。

 文庫では近頃、往年の名作の復刊が盛んだが、笹沢左保『招かれざる客』(徳間文庫)は、乱歩賞次席となった作者の長篇デビュー作。実は原題を『招かざる客』といい、編集者の勧めで改題されたが、作者は後年までこの題名にこだわり続けていた。それは同時に、この題名が笹沢作品全体を貫くテーマだったからだ。二冊目は『空白の起点』が復刊とあり、では三冊目は『霧に溶ける』かななどと妄想するのも楽しい。

 さらに都筑道夫『なめくじに聞いてみろ』(講談社文庫)は、これなどこの作者にしか書けない奇ッ怪なアクション小説と謎とき小説が一体化された目のまわりそうな傑作である。嬉しくなるのは、本文庫の旧版に収められている、この作品を「殺人狂時代」として映画化した岡本喜八監督の名解説も併せて復刊されている点であろう。正に粋なはからいではないか。

新潮社 週刊新潮
2021年12月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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