『歴史のダイヤグラム』原武史著(朝日新書)

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歴史のダイヤグラム 鉄道で見る日本近現代史

『歴史のダイヤグラム 鉄道で見る日本近現代史』

著者
原武史 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784022951397
発売日
2021/09/13
価格
935円(税込)

書籍情報:openBD

『歴史のダイヤグラム』原武史著(朝日新書)

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

 著名な政治思想史家は、筋金入りの鉄道ファンであった。いわゆる乗り鉄・撮り鉄で、時刻表・車両・廃線・駅弁など鉄道全般の歴史について幅広く該博な知識と経験に富んでいる。

 お召(めし)列車など天皇と鉄道をめぐる昭和史の物語、東京近郊の鉄道と都市景観の歴史的変容、石川啄木・夏目漱石・谷崎潤一郎ら文学者が書き残した鉄道体験の具体的な再検証、後藤新平が車中で脳溢血(いっけつ)に倒れたり、原爆直後の広島駅で運行に務めた女性駅員の姿など鉄道で起きた諸事件の物語、そして著者の子供の頃からの鉄道体験にわたっている。連載記事であった小文は、いずれも副題「鉄道に見る日本近現代史」にふさわしい魅力的かつ練達した文章であり、新知見も多く提供する。

 日本の鉄道は、目的地に早く着くサービスをひたすらめざしてきたが、列車に乗る時間は、旅人にとって日常から解放される人間的で豊かな意味ももっている。鉄道は、経済的価値に還元できない文学や芸術と同じく「人生にとって大切な文化」ではないかという著者の主張は、鉄道ファンならずとも共感できる。

読売新聞
2021年12月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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