これぞパスティーシュの理想形――松岡圭祐『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』レビュー

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これぞパスティーシュの理想形――松岡圭祐『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』レビュー

[レビュアー] 北原尚彦(作家・翻訳家)

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■松岡圭祐『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』

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▼『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』特設ページ
https://bit.ly/3Ctd6vL

■これぞパスティーシュの理想形
松岡圭祐『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』レビュー

評者 北原尚彦(作家・ホームズ研究家)

 松岡圭祐『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(講談社文庫)では巻末解説を書かせて頂いたが、わたしはその末尾を「これだけの知識と技量があれば、また傑作ホームズ・パスティーシュを書けるはずだ。これからも大いに期待したい」という言葉で締めくくった。それ以来ずっと期待を保ったままだったのだが、遂にそれに続く第二弾という作品が発表された。しかしその新作はパスティーシュではあったが、ホームズものではなく――『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』だったのである! まさかこう来るとは思わなかった、という嬉しい裏切りである。
 『ホームズ対博文』では架空の有名人と実在の有名人の競演だったが、今回は架空の有名人同士の競演だ。ルパンと明智小五郎の競演には江戸川乱歩著『黄金仮面』という前例があるが、そちらをルパン・ファンが読んだときの隔靴掻痒感を、「こういうことだったなら納得がいく!」と見事に解消してくれている。
 一方、歴史的な出来事を取り込み、そこに新たな真相を照らし出してしまうところは『ホームズ対博文』と共通している。前作では明治時代の「大津事件」だったが、こちらでは昭和初期に発生した事件が絡んでくるのだ。
 さらに、本家のシリーズ全体から要素を取り込んでいるところも共通しており(今回特に重要なのはルブラン著『カリオストロ伯爵夫人』)、「アレとつながるのか!」と楽しい。またホームズやモリアーティ教授への言及もあり、シャーロッキアンもニヤリとさせられる。元ネタからただ引用しているだけではなく、きちんと「再咀嚼」して新たな物語が生み出されている(とあるキャラの「誕生秘話」も明かされる!)。ルパンものを読んでいる時の感覚と、乱歩の明智ものを読んでいる時の感覚、そしてもちろん松岡圭祐の最新作の味わい、全てを同時に味わえるという豪華さ。
 元ネタを読んでいた方が面白いのは確かだが、読んでいなくても十二分に面白いのが素晴らしい。これはパスティーシュの理想形なのである。

■作品紹介・あらすじ

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これぞパスティーシュの理想形――松岡圭祐『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 …

アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実
著者 松岡 圭祐
定価: 968円(本体880円+税)
発売日:2021年11月20日

全米発売『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』に続く第2弾
アルセーヌ・ルパンと明智小五郎が、ルブランと乱歩の原典のままに、現実の近代史に飛び出した。昭和4年の日本を舞台に『黄金仮面』の謎と矛盾をすべて解明、さらに意外な展開の果て、驚愕の真相へと辿り着く! カリオストロ伯爵夫人に息子を奪われたルパン、55歳の最後の冒険。大鳥不二子との秘められた恋の真相とは。明智と文代の馴れ初めとは。全米出版『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』を凌ぐ、極上の娯楽巨篇!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322109000592/

▼『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』特設ページ
https://bit.ly/3Ctd6vL

乱歩も賛辞を惜しまなかっただろう。徹底した合理的精神が解き明かす原典への回答――松岡圭祐『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎』文庫巻末解説
https://www.bookbang.jp/review/article/715122

KADOKAWA カドブン
2021年12月08日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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