〈未来の文学〉は予言した! 今こそ読みたい復刊ブームが続く小松左京

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〈未来の文学〉は予言した! 今こそ読みたい復刊ブームが続く小松左京

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 コロナ禍で『復活の日』が脚光を浴びたのに続き、小栗旬主演で『日本沈没』がTVドラマ化されて、ここしばらく、ちょっとした小松左京ブーム。ひさしぶりに原作を読み返してみたところ、小説の冒頭、主人公が偶然東京駅で旧友と同じ新幹線に乗り合わせるシーンがあり、思わず笑った。なにしろ、その旧友は“リニアモーター超特急”に関わる仕事で出張することになり、「次から次へと問題が起こって、基礎工事がすすまんのだ」と愚痴るのである。半世紀前に書かれたこの台詞がまさか今もそのまま通用するとは……。

 という話はともかく、小松左京の小説は(おそらく女性描写を別にして)意外と古びていない。実際、21世紀中国が放つ世界的ベストセラー、劉慈欣『三体』三部作にも、著者みずから影響を告白するとおり、随所に『日本沈没』の影があり、あらためて小松左京の偉大さを実感する。

 このブームにあやかって、旧作の復刊も相次いでいる。『日本沈没』初刊と同じ1973年3月に創刊されたハヤカワ文庫JAは、この10月に通巻番号が1500番に到達したのを記念し、0001番にあたる小松左京『果しなき流れの果に』を復刊。当時のままの生頼範義のカバーが懐かしい。これはもともと早川書房のSFマガジンに連載された小松SF最初期の代表作だが、その後いろいろ騒動があって、早川版は40年近くずっと絶版だっただけに、新刊書店に並んでいるのを見ると感慨もひとしおだ。

 一方、対する徳間文庫は、〈小松左京“21世紀”セレクション〉と銘打つ全4巻の選集を発刊。その第1巻【グローバル化・混迷する世界】編として、『見知らぬ明日/アメリカの壁』を同じ10月に刊行した。なんでも“予言的中作品”のみを集めたアンソロジーというコンセプトだそうで、おお、そんな切り口があったのか。長編の『見知らぬ明日』は“中国の軍事大国化・周辺行動の激化”を、短編「終りなき負債」は“親子ローン(証券化支援ローン)”を、「極冠作戦」は“地球温暖化”をそれぞれ予見していたらしい。なるほど。

新潮社 週刊新潮
2021年12月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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