<東北の本棚>「二心殿」 多面的に検証

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運命の将軍徳川慶喜 : 敗者の明治維新

『運命の将軍徳川慶喜 : 敗者の明治維新』

著者
星, 亮一, 1935-2021
出版社
さくら舎
ISBN
9784865813128
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>「二心殿」 多面的に検証

[レビュアー] 河北新報

 明治維新で「賊軍」の汚名を着せられた会津藩の悲劇は、幕命であればこそ、一徹に愚直に任務を果たした結果、最後は全ての責任をかぶったことだろう。因果となったのは、「最後の将軍」徳川家15代の慶喜だった。インテリで弁が立つとの評価がある一方、時に応じ言動が極端に変わる性格は「二心殿(にしんどの)」とも呼ばれた。

 会津藩と慶喜の関わりは、幕府が新設した京都守護職に、藩主松平容保(かたもり)が任命されたことに始まる。容保は慶喜に尽くし、慶喜も大いに頼った。だが、慶喜の心変わりに、容保や会津藩は振り回された。大政奉還後も「悪いのは会津だ」とばかりに、薩長の矛先を会津に向けさせ、仏門に入る。郡山市の歴史作家である著者は「慶喜の命が助かり、徳川家が存続できれば、後はどうなっても構わない。そんなやり方であった」と断じる。新政府が仙台藩に下した会津追討令は、慶喜が逃げたとばっちりだ。

 本書は慶喜の多面的な検証も試みる。時代の激動に巻き込まれる中、著者は「内面に深慮遠謀が秘められていたのではないか」と推し量る。外国の植民地になったり、国内が混乱したりする事態を阻んだのかもしれない。だが「慶喜さえ決然としていれば」という会津人の恨みは消えない。

 会津人は「ひきょうな行動」を忌み嫌う。夏目漱石の小説「坊っちゃん」の登場人物、ぶっきらぼうだが正義感の強い数学教師「山嵐」が典型だろう。優柔不断ながら憎めない性格の教頭「赤シャツ」が、どこか慶喜の印象に重なる。

 32歳の若さで歴史の表舞台から消えた慶喜。1913(大正2)年、76歳で死去した。その4年前、福島県猪苗代町の有栖川宮家の別邸を訪ねた際、会津若松市の飯盛山に足を運び、白虎隊の墓前に参拝したと推定される慶喜撮影の写真があるという。想像力をかき立てる。(志)
   ◇
 さくら舎03(5211)6533=1650円。

河北新報
2021年12月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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