『石が囁く 国東半島に秘められた日本人の祈りの古層』
- 著者
- 船尾修 [著]
- 出版社
- K2 Publications
- ISBN
- 9784991193309
- 発売日
- 2021/12/07
- 価格
- 2,090円(税込)
書籍情報:openBD
『石が囁(ささや)く 国東半島に秘められた日本人の祈りの古層』船尾修著(K2 Publications)
[レビュアー] 栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)
モノクロームの写真集を開くと、森へ分け入る道があり、木蔭(こかげ)に集う石塔や、岩陰に寄り添う石仏や、木の根がからんだ巨岩や、苔(こけ)むした磨崖仏が現れる。ごくまれに修験者の姿が写っている他に人影はない。
自然に還(かえ)ろうとしている石造物は、神々と仏への信仰が渾然(こんぜん)一体となった山岳宗教文化の名残である。
行ったことがないのに懐かしい山。鎌倉や奈良の人里から裏山へ迷い込んだとき、古ぼけた祠(ほこら)や石仏を見つけたのを思い出す。ふだんは忘れているけれど、案外近くにあって、出会うと殊勝な気持ちが湧き上がる景色。大分県国東半島に残る祈りの原風景は、ぼくたちの内面でまどろむ、無意識的な信仰に気づかせてくれる。
じつは神仏習合の信仰は今でも生き続けている。それを知るには著者の前作『カミサマホトケサマ 国東半島』を見ればいい。山と海の間に暮らす里人たちの奇祭が記録された、にぎやかな写真集だ。