『1961 アメリカと見た夢』堀田江理著(岩波書店)

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1961 アメリカと見た夢

『1961 アメリカと見た夢』

著者
堀田 江理 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784000615006
発売日
2021/11/29
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

『1961 アメリカと見た夢』堀田江理著(岩波書店)

[レビュアー] 橋本倫史(ノンフィクションライター)

分断の時代 生き抜く糧

 ジョン・F・ケネディが大統領に就任した1961年。日本人の海外旅行が自由化されていなかった時代に、「99ドルで99日間」が売り文句の乗り放題チケットを使い、全米を横断するバス旅行に出た大学生4人組がいた。メンバーのひとり・堀田健介は、著者の父だ。

 父の転勤で高校時代に渡米し、歴史研究者となった著者は、ロックダウンされたニューヨークで、「アメリカとは何か?」という問いと向き合い始める。その手がかりとして、一行が書き残した日記を読み解き、60年前の旅に想像を巡らせ、日本がアメリカと見た夢を――あるいはアメリカ自身が見た夢を描き出そうとする。

 ケネディ政権下のアメリカは理想で輝いているように見えたが、人種差別や格差の問題など、理想とかけ離れた現実を目のあたりにする。その一方で、かけがえのない出会いも数多くあった。GIとして日本に滞在した経験から一行に話しかけてきて、黒人差別への憤りを滔々(とうとう)とかたってくれた黒人青年。差別が根強く残る時代に、黒人女性の隣に座り、荷物の上げ下ろしを手伝う白人兵士。16年前は憎しみあった敵国の若者を自宅に招き、郷土料理でもてなし、バスターミナルまで見送ってくれた夫妻。そうした「小さな親切や善意、個人的なふれあいの記憶」も、彼らの日記に綴(つづ)られる。

 印象深いのは日系人との出会いだ。日系人の多くは、戦時中は強制収容され、市民としての権利を剥奪(はくだつ)されている。つまり、アメリカの掲げる民主主義の矛盾を知り尽くしているにもかかわらず、その根本理念を信じ続けていた。彼らの姿に、著者は「ひとりで考え、歩き、生きる力強さ」を見る。その後ろ姿こそ、アメリカと見続けるべき夢ではないか、と。

 60年前に比べて、社会の分断は深刻化している。だが、絶望するにはまだ早い。自分が知らない時代や、見知らぬ誰かの後ろ姿に触れることは、困難な時代を生き抜く糧となるはずだ。

読売新聞
2021年12月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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