マーケティングの全体最適が叶う「パーセプションフロー・モデル」の基本とは?

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

The Art of Marketing マーケティングの技法

『The Art of Marketing マーケティングの技法』

著者
音部大輔 [著]
出版社
宣伝会議
ジャンル
産業/商業
ISBN
9784883355259
発売日
2021/12/01
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

マーケティングの全体最適が叶う「パーセプションフロー・モデル」の基本とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

The Art of Marketing マーケティングの技法―パーセプションフロー・モデル全解』(音部大輔 著、宣伝会議)の著者は、アリエール、ファブリーズ、アテント、パンパースなどのブランドマネジメントを手がけたP&Gジャパンを筆頭に、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、資生堂などで実績を積み上げてきた人物。現在は株式会社クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役として活躍されています。

そうした実績をもとに本書で指摘しているのは、時代の変化とマーケティング活動との関係です。

テクノロジーやサービスが日々アップデートされ、消費者行動もデジタル化するなか、マーケティングのデジタル化が促進されるのは当然の話。その結果、新サービスやツールが相次いで生み出され、テクノロジー企業やサービスが複雑化の一途をたどるわけですが、そんな状況下に問題が。

それぞれの施策の効率や効果が高まったとしても、マーケティング活動全体の成功に結びつかないというケースが見られるというのです。

部分最適の延長線上に、必ずしも全体最適があるわけではないのです。最新のサービスを導入したものの、既存の活動と連動しづらく、成果がうまく出ないこともあります。

接点が増えることで、各活動の影響力は相対的に下がり、単発の施策や広告活動では、ブランドを構築しにくくなってきました。(「はじめに」より)

しかし、多様な接点やツールをうまく連携させ、マーケティング活動全体の最適化が実現すれば、その効果と効率は、部分最適な活動と比較して飛躍的に高まるようになったともいえるはず。そのため、複数の広告会社やパートナーと協働することが、ブランドの競争力を高く維持するためには欠かせないわけです。

そこで本書では、複雑化する環境下で的確な判断を下すために活動全体を俯瞰する技法を紹介しているのです。すなわちそれが、「パーセプションフロー・モデル」。いったい、どのようなものなのでしょうか?

パーセプションフロー®・モデルとは?

パーセプションフロー®・モデルは、消費者の認識(パーセプション)変化を中心としたマーケティング活動の全体設計図です。

マーケティングの4P、すなわち製品、価格、流通・店頭、施策などの全体像を図示するので、各活動が的確に配置され、連携し、全体最適を実現するのに有効です。(「はじめに」より)

パーセプションフロー・モデルは、消費財のブランドマネジメントに携わっていた著者が考案、命名したもの。1990年末にP&Gの日用雑貨ブランドが、日本市場でブランドマネジメント用のツールとして使いはじめたのが最初だったようです。

それは洗剤から消臭剤、紅茶などの食品、国内外の化粧品へと展開され、そののちアルコール飲料、自動車、オートバイ、医薬品、家電、住宅など、適用範囲を大きく広げているのだとか。

そればかりか学習塾や通信教育、保険、IP(知的財産)、アプリ、電力会社、放送局など無形のサービス、D2C(中間流通業者を通さず、自社のECサイトを通じて商品を直接販売する手段)やB to B領域への適用も進んできたというのです。

外資系企業のブランド組織からはじまりましたが、近年では多くの日本企業でも運用されています。

「高頻度で繰り返し購入される日用品」から「低頻度で関与度の高い耐久財」まで、また伝統的な大企業から新興企業にいたるまで、広範な事業領域で成果を発揮し、重用されています。(「はじめに」より)

また、適用範囲の拡大に伴って変化を重ねていき、実績とともにバージョンアップしてきたことも注目点のひとつ。初期の運用は経験豊富なマーケターに限られていたものの、適用領域の拡大とともに研究と改良が進み、より多くのマーケターにとっても使いやすいマーケティング・ツールへと変化してきたのだそうです。

旧来型のアプローチは、製品や流通経路、販売の視点から「どのように売るか」というものでした。対して、消費者の視点から「どのように欲しくなり、満足するか」を考え、可視化したものがパーセプションフロー・モデル

それはブランドの育成だけではなく、市場創造にも重要な役割を果たしてきたのだそうです。また消費者を中心とした諸活動の可視化は、部門間でも共有しやすく、消費者中心の組織構築や文化醸成にも貢献しているのだといいます。

そんなパーセプションフロー・モデルには、多くの優れた特徴が。

たとえば既存の消費者行動を描く一般的なカスタマージャーニー・マップとの違いは、未来の消費行動を促す消費者の「認識の変化」に着目していること。

ブランドが目指す未来像を「全体設計図」に表すことによって、複数の部門やパートナー(広告会社、PR会社など)、多様な新技術など、多くの要素をうまく統合させられるわけです。

また、環境変化や施策の変更があった際には、素早く修正して関係者に共有することも容易。そういう意味で、時代に即した手段だといえるのです。(4ページより)

はじめにパーセプションありき

パーセプション(perception)という言葉は、英語の辞書では「知覚」となっていますが、マーケティングの文脈に限るとむしろ「認識」の方が的確なようで、「認識」とも「知覚」とも理解できます。

本書では、「認識」は消費者が頭で理解したり心に思ったりしていること、「知覚」は消費者が五感などを通して感じとること、と解釈することにします。

感覚器でとらえた「知覚」を脳が解釈し、意味を理解した状態が「認識」です。(「はじめに」より)

たとえば、飛ぶ蚊の羽音を聴覚がとらえ、腕にかゆみを感じたら、このふたつの知覚から「近くに蚊がいて、自分は刺された」と認識するという具合。

認識と知覚の理解は、「なにをいうか、どういうか」という送り手の視点だけでなく、「どのように聞かれて、どのように理解されるか」という受け手の視点を持つことにもつながるわけです。(6ページより)

こうした基本的な考え方を軸として、以後は事例とともに、パーセプションフロー・モデルの概要、特徴と効用、使い方、つくり方、検証の仕方などが解説されていきます。

すでにパーセプションフロー・モデルを導入している企業にとっては、社内での育成やオペレーション強化のためのテキストとして、これから導入する企業にとっては導入のマニュアルとしても活用できるそうなので、応用範囲はとても広そうです。

Source: 宣伝会議

メディアジーン lifehacker
2021年12月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク