『最終結論「発酵食品」の奇跡』
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<東北の本棚>世界旅し発見 ベスト17
[レビュアー] 河北新報
福島県小野町出身の発酵学の泰斗が、半世紀に及ぶ研究生活の中で心に残ったエピソードをつづった書き下ろし作品。学術的な要素も織り込まれているが、紀行文のような文体で編まれているので楽しく読める。
世界中を旅して発酵食品を口にしてきた経験を基にベスト17を取り上げ、それぞれに1章ずつ割いた。なれずしや豆みそなどが紹介されていて、歴史や製作過程などを記している。
その一つ、江戸時代中期の文書「料理珍味集」に出てくる「紙餅」について著者は「賢食」だと説く。使い古した和紙を水に漬けて汚れを取り、水を絞ってから棒でたたいた後、みそとクズを加えてこね、切り分けてみそ汁の具にした物で、病院も薬局もない時代に身を守るため「整腸食を編み出した」と称賛する。
「口噛(か)み酒」の記述も面白い。こうじや麦芽が知られていなかった大昔にも酒はあったとし、古事記の一節を挙げる。コメをかむと唾液に含まれる酵素でブドウ糖ができる。とろとろになったコメを容器にためれば空気中などの酵母が付着して発酵する。著者は学生と一緒に作ってみたといい、「おいしいものとはいえないが、アルコール度数は9度もあった」と驚く。
各章とも現地の方言や風習が出てきて興味をそそられる。なれずしの章では青森県西目屋村の白神山地に向かい、アケビのなれずしについて現地の夫婦らに津軽弁で語らせる。著者は肉も魚も塩も使わない極めて珍しいなれずしに興奮するが、そんな学問的発見も、方言交じりの文体によって気軽に読み進められる。
お得意の擬音語もさえる。アケビのなれずしはアケビが「カリリ、コリリ」で、ご飯は「ネチャリネトリ」。豆腐のみそ漬けは「チュルチョロペロロ」だ。多くの著書に登場する著者の厨房(ちゅうぼう)「食魔亭」も健在で、懐かしい。(桜)
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文芸春秋03(3265)1211=1870円。