『エッセンシャル仏教 教理・歴史・多様化 Buddhism』デール・S・ライト著(みすず書房)

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エッセンシャル仏教

『エッセンシャル仏教』

著者
デール・S・ライト [著]/佐々木閑 [監修]/関根光宏 [訳]/杉田真 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/仏教
ISBN
9784622090366
発売日
2021/10/20
価格
4,180円(税込)

書籍情報:openBD

『エッセンシャル仏教 教理・歴史・多様化 Buddhism』デール・S・ライト著(みすず書房)

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

現実に関与 生きた教え

 原始仏教から現代のグローバル仏教まで、わたしたちが疑問に思う事柄を、一問一答でバランスよく論じた一書である。仏教が多様であり、現在においても新たに創造されつつあることがよくわかる。

 全体は五章構成で、第一章から順に、原始仏教の誕生、仏教の多様性、仏教の教え、仏教の修行、現代のグローバル仏教となっている。印象的なのは、仏教の教えにある「無我」を、「人間は永遠に存在するわけではなく、まったく存在しないわけでもない」と中道的に解釈していることだ。この解釈は「永続的で独立した自己」がエゴイズムや他者からの孤立をもたらすと批判する一方で、「私」なるものはある、ただし「肉体、感情、思考、意欲、自意識をもっている」のではなく、それらの「現在の状態」として「存在している」と考えるのである。

 著者の軸足は、近年話題になっているマインドフルネスの探究にある。そのため、仏教の修行の問答には見るべき点が多い。例えば、瞑想(めいそう)法の紹介の中に、中世の大乗仏教に影響を与えた寂天(じゃくてん)が推奨したという他者への慈悲の涵養(かんよう)がある。それは、自分の苦ではなく他者の苦を軽減するためにエネルギーを使うというものだ。ここには仏教の利他的な側面がよく現れている。

 現代のグローバル仏教においては、「仏教モダニズム」と呼ばれる現代科学との関連を追求する仏教、より民主的な政治社会を目指す社会参画仏教、「蓄積と貪欲がもたらすとらわれから自由になる」ことで資本主義を問い直す、いわば仏教経済学、マインドフルネスを取り入れた認知療法のように現代心理学と連携する仏教がある。さらには環境保護に向かう「エコ仏教」、女性の役割を公正に評価することで仏教儀式が再形成されていることなどが紹介されている。それらは、仏教が決して過去の教えではなく、現実に関与することを通じて、生きた教えであることを伝えてくれるものだ。

 こなれた訳文に感服するとともに、監修者の佐々木閑による辛口のあとがきも読み応えがある。関根光宏、杉田真訳。

読売新聞
2021年12月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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