『「墓じまい」で心の荷を下ろす』
書籍情報:openBD
『「墓じまい」で心の荷を下ろす』島田裕巳著(詩想社新書)
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
墓じまい、「改葬」はお墓の引っ越しだ。遠く離れた故郷のお墓を、親族が暮らす土地に移す。墓参りする人がいなくなるお墓の遺骨を、永代供養の納骨堂に移す。そこに眠る死者にとっても、墓守する生者にとっても、けっして悪い話ではないし罪なことでもない。
なのに、墓じまいにはなぜか揉(も)め事が付きまとう。改葬の相談をしたら、菩提(ぼだい)寺の和尚さんに頭ごなしに叱られたとか、親戚が集まる席で切り出したら猛反対されたとか。そして、墓じまいを考えている当事者も、叱られたり反対されたりすると、(やっぱりまずいのかな)と腰が引けてしまう。猛反対を押し切って墓じまいをするのは、猛反対を押し切って結婚するよりも難しいような気がする。お墓を守るのは、それくらい厳正に果たされるべき義務なのだ――と、私たちは思い込んできた。
本書は日本人の心性の歴史をひもときつつ、そんな思い込みの呪縛を解いてくれる。タイトルが「墓じまいの手引き」ではなく、「荷を下ろす」である意味が深い。お墓を「荷」だと感じるのは、おろそかに思っていないからこそなのだ。