『星新一の思想 予見・冷笑・賢慮のひと』浅羽通明著(筑摩選書)

レビュー

6
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星新一の思想

『星新一の思想』

著者
浅羽 通明 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784480017383
発売日
2021/10/14
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

『星新一の思想 予見・冷笑・賢慮のひと』浅羽通明著(筑摩選書) 2200円

[レビュアー] 稲野和利(ふるさと財団理事長)

読み継がれる普遍性

 星新一の本を探して書棚を検(あらた)めてみたところ、そこにあったのは『ほら男爵 現代の冒険』ただ1冊であった。小松左京や筒井康隆の本はたくさん残っているのに、星新一の本がほとんど消えているのは驚きであった。友人たちに奨(すす)めて貸したりすることを繰り返しているうちに散逸してしまったのであろうが、散逸した事実に気づいていなかったのはもっと驚きである。「星新一を卒業した」気分になっていたのだろうか。だとすればそれはあまりに浅薄だったというのが本書を読んでまず思ったことである。

 最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人』が刊行されたのは2007年だが、徹底した取材で星新一の人間像を描き、大いに評判となったのは比較的記憶に新しい。これに対し「星読ゼミナール」と称する星新一の読書会を主宰する著者は、眼光紙背に徹するかの如(ごと)き星作品の読み込みにより、「帰納的に浮かび上がってくる共通項を掬(すく)い」とり、星新一の「思想」を浮かび上がらせる。「価値の相対化」はその一つだ。「誰もが疑わない理想へ懐疑を突きつけてゆく」ことにより、例えば、同じディストピア小説でも星作品は理想や正義を掲げる他とは明らかに一線を画するものとなっている。

 文学賞には縁がなく、かつて「小説とか文学とはいえない」とも言われた星作品の特徴は「感情描写のないこと」だが、それゆえに表現形態としての普遍性を獲得し、本文中で言及される「読者ファースト」の考え方に支えられた普遍性のあるアイディアとともに、長く読み続けられる背景となっている。本書は「汲(く)めども尽きぬ泉である星作品」と表現するが、その意味するところは今日この時点でも星作品は未来に向かって開かれているということなのだろう。

 本書読了後、失地回復すべく星作品を何冊か買い求めた。手に取った『ボッコちゃん』(新潮文庫)の奥付を見るとそこには「令和三年十一月十日 百二十五刷」とあった。

読売新聞
2021年12月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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