『図説 大名庭園の近代』小野芳朗、本康宏史、中嶋節子、三宅拓也編著(思文閣出版)

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図説 大名庭園の近代

『図説 大名庭園の近代』

著者
小野芳朗 [編集]/本康宏史 [編集]/中嶋節子 [編集]/三宅拓也 [編集]
出版社
思文閣出版
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784784220014
発売日
2021/10/06
価格
6,600円(税込)

書籍情報:openBD

『図説 大名庭園の近代』小野芳朗、本康宏史、中嶋節子、三宅拓也編著(思文閣出版)

[レビュアー] 木内昇(作家)

時代に翻弄 名園の変遷

 近代、ことに明治から戦前あたりまでの時代には、定義の難しさを感じることがある。今現在と近からず遠からずの微妙な距離感ゆえか、はたまた御一新以降の政治の迷走がそう思わせるのか。足下不如意、先もいまひとつ見通せず、という揺れは文化にも影響を及ぼした。

 幕府瓦解によって置き去りにされた大名庭園もまた、この時代の波に翻弄(ほんろう)されたもののひとつ。そもそも藩主の好みに設(しつら)えられていた庭園を、一般に開くために造り直すとなれば、自(おの)ずと時世が反映されるのもむべなるかな。梅の名所として知られる水戸の偕楽園では明治期、勧業試験場が置かれ、乳牛やロバが飼育された。大日本勧業博覧会の会場となった岡山の東山公園に大噴水が造られ、高松の栗林公園が動物園とプールを備えるなど、昭和に入って遊興施設に改修された庭園も多い。

 一方で、金沢・兼六園では、日清、日露戦争の祝勝会が開催され、第2次大戦中は石油代替燃料である松根油を乾溜(かんりゅう)するため、庭を彩る松も伐(き)られた。戦争の爪痕は、どの庭園にも克明だ。全国5箇所の庭園の変遷を、写真と絵図、絵はがきから辿(たど)る本書の構成は、眺めているだけでも楽しい。同時に、詳密な解説と年表から時代性や文化的流行に触れることもできる。

 ただ近年、これらの庭園は、江戸時代の姿に回帰しているのだという。とはいえ周囲の環境は大きく変わっており、木々の間からは高層ビルが見え、植生も150年前とは異なる。それでも、個人が趣向を突き詰め、高い技術をもって造られた庭が、時代の大衆的流行を詰め込んだ作庭を凌駕(りょうが)する現実に、近代の迷走とはまた別の深い真理を見るような気がするのだが、それは評者だけだろうか。

読売新聞
2021年12月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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