『熔果』
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ロードノベルの面白さも備えた相棒小説の逸品 黒川博行『熔果』
[レビュアー] 西上心太(文芸評論家)
――わしや。待ってる。
堀内伸也にかかってきた伊達誠一からの電話で、このシリーズは動きだす。そう、大阪府警の元マル暴刑事コンビだ。刑事という仕事が大好きで腕利きでもあったが、あまたの不祥事がばれて警察を追われてしまった二人である。
ヤクザのフロント企業である競売会社の調査員となった伊達は、この電話で堀内を誘い、自社の物件に居座る占有屋の排除に出かけた。ところがこの男が関釜(かんぷ)フェリーを使った金塊密輸で逮捕されていたことや、まだ主犯が逃亡中であることを知る。さらにその後、博多で五億円の金塊が強奪される事件もあった。この二つを結びつけた伊達と堀内は、未だ押収されていない金塊の行方を追い始める。
初期作品の大阪府警シリーズの黒田と亀田の黒マメコンビ、疫病神シリーズの桑原と二宮など、黒川作品に登場するコンビはいくつもあるが、内省的で無口だが聞き込みが巧みな堀内、開けっぴろげでお喋りで座持ちの良い伊達と、性格こそ違うが対等で仲が良い本シリーズの二人こそ、最高のコンビと言えるのではないだろうか。
伊達が堀内を調査に引き込むのは、大怪我を負って(『繚乱』)以来、出不精で無為な毎日を送る堀内への気遣いもあるからだ。金の匂いが彼らの行動のきっかけではあるが、それは二の次に見える。刑事時代と同様、集めた情報からもつれた糸をほぐし、核心に迫るプロセスが楽しくてたまらないのだ。
密輸に関わった半グレ集団、ヤクザ、悪徳貴金属ブローカーを追い、拳にものを言わせ、淡路島、湯布院、小倉、博多、名古屋と各地を東奔西走する。ロードノベルの面白さも備えた相棒小説の逸品だ。