大杉栄の粛清や九州帝大の生体解剖……近代文学へのオマージュとパロディが炸裂する物語 真藤順丈『ものがたりの賊』

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ものがたりの賊

『ものがたりの賊』

著者
真藤 順丈 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163914534
発売日
2021/11/08
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

大杉栄の粛清や九州帝大の生体解剖……近代文学へのオマージュとパロディが炸裂する物語 真藤順丈『ものがたりの賊』

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 物語は、関東大震災に見舞われた東京の悲劇から始まる。朝鮮人が井戸に毒を入れた、あちこちで放火しているとの流言蜚語(りゅうげんひご)に煽られた群衆が暴徒化しているのを、親譲りの無鉄砲がしみついた〈坊っちゃん〉は我慢できない。孤軍奮闘で抵抗しているところにやってきたのは、坊っちゃんに、かつて〈血の恩寵〉を授けてくれた翁こと〈竹取の翁〉。その翁をリーダーとする七名は〈血の恩寵〉を持つ一党で、『高野聖』の聖や『伊豆の踊り子』の薫、『山月記』の李徴など。それぞれが不老の力を与えられる、触れるだけで傷を癒やせるなど特殊能力を備えている。

 折しも、帝国主義的野心を拡大させていたこの国には、厄災を利用して一気に社会運動の活動家たちや無政府主義者たちを根こそぎにしようという軍部の動きがあった。さらには、猟奇の化身を城主にする纐纈城(こうけつじょう)を拠点に、参謀本部は〈不死鳥計画〉なる謎の作戦を推し進めている。その国家の変質にいち早く気づいたのが、翁や実在のアナーキスト・大杉栄だ。翁は、情報提供するなど大杉と通じていた陸軍軍人の木村兵太郎から九州帝大の実験を聞かされ、〈不死鳥計画〉一端を知る。そこにバイオテロまで加わって……、二転三転しながら読者をニヤリとさせるラストへ連れて行く。

 歴史の有名人と小説の有名人が入り乱れ、開戦前の昭和初期までを映し出す冒険活劇だ。荒唐無稽な設定も、大杉栄の粛清や九州帝大の生体解剖、『青鞜(せいとう)』の刊行など史実を忠実に織り込むことで、パロディ炸裂の壮大なifの物語に仕上げた。物語を書き付けていく男とその物語を読む男が出会う奇妙な味わいの『地図男』でデビューした著者らしい、風刺とアイデアが詰まった長編だ。

光文社 小説宝石
2022年1・2月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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