「親戚のおじさんおばさん視点でお読みいただければ嬉しいです」 石持浅海『新しい世界で 座間味くんの推理』刊行記念エッセイ 

エッセイ

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新しい世界で

『新しい世界で』

著者
石持浅海 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914370
発売日
2021/12/22
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

登場人物の成長 『新しい世界で 座間味くんの推理』著者新刊エッセイ 石持浅海

[レビュアー] 石持浅海

長寿シリーズの中には、時間が止まっているものが少なくありません。

 作中では、探偵役や周辺の人物は年を取らず、同じ人間関係の中で話を重ねていきます。シリーズ探偵を安定的に活躍させるための、定番の手法といえるでしょう。

 安楽椅子探偵ものだと、その傾向が顕著です。なにしろ自分が事件に巻き込まれたわけではないから、事件によって心境の変化が生じたりといった「乱れ」が生じる心配もありませんし。

 僕が十八年間続けている『座間味(ざまみ)くんシリーズ』も、安楽椅子探偵ものです。けれど登場作である長編『月の扉』では、探偵役である座間味くんは、ハイジャック事件にしっかりと巻き込まれています。続く連作短編が『月の扉』から数年後という設定になってしまったため、時間を止めるのに失敗しました。おかげで、初登場時には二十代だった座間味くんも、今はすっかり中年です。

 物語世界で時間が流れるため、執筆の最中、ずっと「今は『月の扉』から何年後」という意識を持ち続けてきました。そうしてシーズンを重ねるうちに「あれ? このまま続ければ、もう少しであのとき人質になった一歳児が二十歳になるんじゃないか?」ということに気がつきました。酒を飲みながら謎解きをするシリーズなので、登場させるためには、成人を迎えてもらわなければなりません。大人になったあの子に語り手を任せれば、素敵な話ができるのではないか。

 本作『新しい世界で』で、ようやくそれが実現しました。語り手はハイジャック事件の人質だった、玉城聖子(たまきせいこ)。この短編集の中でも時間は流れ、聖子は大学生から社会人へと成長していきます。一歳で危機に陥り、不幸な少女時代を過ごした彼女は、はたして安住の地を見つけられたのか。

 そんな親戚のおじさんおばさん視点でお読みいただければ嬉しいです。

光文社 小説宝石
2022年1・2月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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