元刑事の悪党二人が狙う百キロ5億円の金塊強奪

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

熔果

『熔果』

著者
黒川 博行 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103174028
発売日
2021/11/18
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

元刑事の悪党二人が狙う百キロ5億円の金塊強奪

[レビュアー] 酒井貞道(書評家)

 堀内&伊達のコンビが四年ぶりに戻って来た! 『熔果』は、不祥事で失職した元刑事が縦横無尽に暴れ回るクライムノベルのシリーズ第四弾である。

 今回、このコンビが狙うのは百キロ五億円の金塊のおこぼれである。大阪・堺市の不動産にまつわる立ち退きトラブルで出会った占有屋・松本に、博多での金塊強奪事件との関連性が浮上する。シノギの臭いを嗅ぎ取った堀内と伊達は、松本と半グレ仲間に圧力をかけ、大阪から兵庫、大分、福岡、愛知と飛び回り、漁夫の利を狙う。

 主役二人は、関係者を続々と訪問・尋問して、次に行くべき場所と会うべき人物を聞き出し、合間に贅食と作戦会議を挟む。物語は基本的に、この繰り返しで構成されており、単調に見せかけて波乱万丈である。まず、次々に登場する事件関係者が、ヤクザ、半グレ、汚職警官、ヒモ、悪徳ブローカー、ダメ社長と、それぞれ個性的である上に、彼らに対して伊達と堀内がやることがえげつない。元警官としてのコネをフル活用し、下調べを綿密にやった上で、金銭目的で動く犯罪者の思考回路や行動様式も完全に先読みするのである。暴力、脅迫、ぺてんが次々に楽々と企まれ、実行される。その嵐に、並み居るワルはすっかり翻弄されてしまう。しかもそれをやる堀内と伊達の息はぴったりであり、バディ小説然とした楽しそうな関西弁の会話が、全てを彩る。直接相手をする人間にはたまったものではないけれど、小説の読者としては、こういう悪党は愉快でたまらぬ。

 だが、主役二人には陰がある。実質的な視点人物である堀内は、シリーズ旧作で負傷して以降、左足が不自由になった。今やすっかり出不精で、今回も伊達から連絡されねば、外出したか怪しい。愛人と別れ家族もおらず孤独感に苛まれているようで、気力や気概が失われつつあるように見える。では伊達はというと、偉丈夫で活動的でお喋り好きであり、妻子(特に妻)への文句は明らかに愛情の裏返しだ。ゆえに伊達は充実している―とも言い切れない。警察を懲戒免職されて久しいのに、調査を「捜査」と言い換えて、自分たちが刑事であるかのようにふるまう。前職への未練や負い目に他ならない。暴力に訴えるのが堀内より多く、また手も早い。内面の荒廃は進んでいるようだ。

 軽快に進みつつも、主役コンビの虚無感が更に色濃く漂うようになり、シリーズは凄みを一段と増した。犯罪小説やバディ小説が好きな人は必読である。

新潮社 週刊新潮
2022年1月13日迎春増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加