ドン底への転落に戸惑う人々 憎しみの行き着く先は

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コロナ禍のアメリカを行く

『コロナ禍のアメリカを行く』

著者
デール・マハリッジ [著]/上京 恵 [訳]
出版社
原書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784562059676
発売日
2021/11/22
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

ドン底への転落に戸惑う人々 憎しみの行き着く先は

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 貧困問題を長年にわたって取材してきたジャーナリストが、社会格差に苦しむ人々の声を聞きながら米国を旅する。原題は「Fucked at Birth(生まれたときからドン底)」。廃業したガソリンスタンドに誰かが残した落書きだ。窓を覆うベニヤ板に、黒いスプレー缶でそんな悪態が吹き付けられていた。

 旅の直前にスマホで撮影したこの言葉を、著者は各地で出会った人々に見せて感想を聞く。ホームレス、その支援者、学者、人権活動家……写真はリトマス試験紙のような役割を演じる。共感、憤り、諦め、さまざまな反応を通じて、個々の人生が浮かび上がる。

 たとえば写真を見た元ホームレスは言う。「アメリカ独立宣言は、すべての人間は平等に作られたと言う。そいつは、この国最初の大嘘だ」。結局はカネ次第だろ、と。

 富は一握りの富裕層に集中し、多くの人はわずかな金のために必死で働くしかない。差別や格差は固定化され、労働者階級に生まれた若者が出世することはほとんど期待できない。アメリカンドリームは過去の記憶でしかなくなった。さらにコロナ禍によって、現状の生活を維持できない人も続出している。

 困窮者に食料を配給する元ギャングの男を訪ねて目にするのは、転落に戸惑う人々の姿だ。黒人に施されることに納得できない白人やラテン系。ジャガーやメルセデスで食料配給を受けにくる人々。配給品を選り好みする菜食主義者。男は言う。「みんなだ。アメリカに生まれた人間はみんな、ドン底なんだよ」。

 苦境の中で不寛容さは加速する一方だ。話はアメリカに限らない。〈どんな時代でも、地球上のどんな場所でも、不況はヘイト運動の火に注がれる油である〉。憎しみの行き着く先には破滅が待っている。

 いつまでもドン底じゃないはず、というささやかな希望を、私たちは取り戻せるだろうか。

新潮社 週刊新潮
2022年1月13日迎春増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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