【対談】押切蓮介×泉朝樹 『おののけ! くわいだん部』と『見える子ちゃん』の作者が語る恐怖と笑いの絶妙な関係

対談・鼎談

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おののけ! くわいだん部(1)

『おののけ! くわいだん部(1)』

著者
押切 蓮介 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784041113400
発売日
2021/08/30
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

見える子ちゃん 1

『見える子ちゃん 1』

著者
泉 朝樹 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784040656588
発売日
2019/04/22
価格
693円(税込)

書籍情報:openBD

【対談】押切蓮介×泉朝樹 『おののけ! くわいだん部』と『見える子ちゃん』の作者が語る恐怖と笑いの絶妙な関係

[文] カドブン

構成・文=藪魚大一

■【対談】押切蓮介×泉朝樹

先頃待望の第一巻が発売された『おののけ! くわいだん部』の作者・押切蓮介氏。
自分だけに見える異形の存在を、女子高生が徹底スルーする姿を描く、アニメ化もされたばかりの『見える子ちゃん』の作者・泉朝樹氏。
共にホラーコメディ漫画を描くお二人が、オンラインにて初対談! 共通項も多い彼らが語り合ったこととは……?

押切蓮介氏(自画像)
押切蓮介氏(自画像)

泉朝樹氏(自画像)
泉朝樹氏(自画像)

――お二人は初対面とのことですが、まずはお互いの作品の印象や感想をお聞かせください。

泉:私の押切作品との最初の出会いは『ミスミソウ』(ぶんか社)でした。うちの奥さんがホラー大好き人間で、当時『ミスミソウ』が連載されていた「ホラーM」を購読していたので、私も読んでいたんです。エグい心理描写が強烈で「こんなキツいのもう読みたくない!」ってなりながらも惹き込まれてずっと読んでました。押切先生はそんなガチで怖い、心をえぐるような話を描いている一方で、『おののけ! くわいだん部』みたいなギャグも描いていて、そのバランスと切り替えがすごいなって思います。

押切:奥様が「ホラーM」を読んでたんですね。

泉:実は奥さんはホラー漫画家だったことがあって、デビューが「ホラーM」だったんですよ。

押切:マジですか?

泉:昔読み切りを少し描いていたぐらいで、今は描いていないんですが。

――『おののけ! くわいだん部』はいかがでしたか?

泉:当初「怪談」と聞いてイメージしていたのとは全然違う感じで……、あんまり怪談を語っている場面がないので意外に思いつつ押切節を楽しんで読んでいたら、後半から急に「バトル漫画が始まるのかな?」って雰囲気になって。

『おののけ! くわいだん部』より。第二南高校怪談部の部長・諸星マコトと部員...
『おののけ! くわいだん部』より。第二南高校怪談部の部長・諸星マコトと部員…

押切:そうそう。ようやく動き出したという感じで。

泉:「え、ここから本編が始まるのか!?」って、すごいワクワクしちゃいました。

押切:『おののけ! くわいだん部』は、「怪と幽」の前身である「幽」で始まった時は一話六ページでやっていたんです。それが「怪と幽」になって十六ページいただけることになったので、これまでとは違う展開をしていかなきゃなと思って、ああいう、天下一武道会みたいなことを始めました。

泉:そんな経緯が。それにしてもワクワクが止まらないです。突然始まった全国高校怪談選手権には、みごとに強キャラばかり出てきて。

怪談選手権には実力者揃いの強豪校が集結し、怪談バトルが繰り広げられる。
怪談選手権には実力者揃いの強豪校が集結し、怪談バトルが繰り広げられる。

押切:ありがとうございます。僕は模索しながら作品を作っていくので、いつもこんな感じでスロースターターなんですけど、こうして泉先生に褒めていただいただけでも今の展開を描いた甲斐があります。泉先生の『見える子ちゃん』は、前々からツイッターなどで情報を得て気になっていたんですが、改めて単行本で通して読んだら、迸るほどの話の広がり方がすごくよくて、一気読みしてしまいました。

泉:ありがとうございます。

押切:巻が進むにつれてどんどん話が広がって、キャラクターも増えていって、泉先生がノって描いているのが感じられて、羨ましく思いながら読んでました。ホラー描写も攻めていて、ちゃんと怖いところは怖くて、一方で女の子とか可愛いところはすごく可愛い。今は漫画をよく読む人たちの中にもホラー描写を嫌がる人が多いのか、昔と違ってホラー描写を好き放題描くと拒絶反応を起こされやすい印象があるんですが、そんな中で『見える子ちゃん』は、可愛い女の子を出すことで怖さをうまく中和して多くの人の心を掴んでいて、今の時代のホラーの成功例だなって思います。

泉:ありがとうございます。自分もホラー大好きなので、描写に関しては手を抜いていないつもりなんですけど、これをホラーって言ったらガチのホラー漫画好きな人たちに怒られるんじゃないかっていう思いもあるんですよね。

『見える子ちゃん』より。主人公・四谷みこ(左)は普通の女子高生だが、ある日...
『見える子ちゃん』より。主人公・四谷みこ(左)は普通の女子高生だが、ある日…

押切:そんなことはないと思いますよ。ホラーは自由度が高いですから。そういえば『見える子ちゃん』を読んだ僕の印象なんですけど、外国のホラー作品からインスパイアされているのかなって思ったんですよ。お化けの描写とかを見て。

泉:そうですね。まさに「お化け」というより「クリーチャー」って感じで描いているんです。そのうえで舞台は日本なので、和風のものとミックスして描いている感じです。

押切:なるほど。いや、気持ちいいんですよ、あのクリーチャーのデザインが。本当にそこにいるような感じがして心地よくて見入っちゃいます。

泉:そう言っていただけて、本当に嬉しいです。

押切:最初に見た瞬間から「この人はガチでお化けを描くのが好きなんだな」というのがすごく伝わってきました。

■ホラーコメディ作家二人の共通項

押切:ところで泉先生は、普段は趣味とか、どんなことをされているんですか?

泉:趣味は完全にゲームですね。最近は『Dead by Daylight』(殺人鬼「キラー」と、キラーから逃げる「サバイバー」に分かれて行う対戦型ゲーム)なんかをやっています。

押切:それはガチですね。

泉:そんなにやれてはいないんですけど、ゲームの他に趣味がないんですよね。映画も人並みに観るぐらいで。ホラー映画ももちろん好きなので観てはいるんですけど。

押切:それはまるっきり僕と一緒ですね。

泉:ここでする話じゃないと思うんですけど、子供の頃みんながスーパーファミコンやってた時に自分はPCエンジンで遊んでたんですよ。

押切:完全に僕と一緒じゃないですか。

泉:はい。だから『ハイスコアガール』(スクウェア・エニックス)を読んだ時に「これ自分だ!」ってなりました。

押切:お互いゲーマーだったんですね。漫画からはそういうイメージはあまり受けなかったので意外です。

泉:でも正直なところ『Dead by Daylight』の影響はだいぶあるんじゃないかと思います。

押切:なるほど。いいですよね、あのゲーム。僕も好きです。

泉:どうにかして自分の作品のクリーチャーが『Dead by Daylight』とコラボしないかなって思ってます。

押切:どうですかKADOKAWAさん? というかこんな話でいいんですかね? でも僕たちは『Dead by Daylight』に支えられて、こんな漫画を描いているわけですからね。

――そんな、ゲームにも影響を受けているという泉さんのクリーチャーですが、ご自身が描く時に意識していることはありますか?

泉:まずできるだけ「整えない」ようにしています。左右の手の長さはこのくらいだろうとか、手足の位置はここだろうとか、常識的に思っているところから外していくようにしているんです。コピーアンドペーストや拡大縮小を繰り返して、描いたものをどんどん崩していって、自分で「何なのこいつ?」って思うくらいにする描き方をしています。

――クリーチャーだけでなく、ホラーを描くうえで意識している点や、気をつけているところはありますか?

泉:『見える子ちゃん』はホラーコメディではありますけど、ホラー漫画としてページをめくった時にびっくりさせるという演出をよく使うので、どうしてもお約束みたいになって「めくったらどうせ怖いのがいるんだろ」って予想されてしまうんですよね。だからそこを裏切って予想を外させるようにしたり、逆に期待させてそれに応えたりして、いかに読者を飽きさせないようにするかは毎回悩んで苦労するところですね。

押切:ネーム(完成原稿を描く前に作成する、コマ割りやセリフ、簡単な絵を描いた、漫画の設計図のようなもの)にはやはり苦戦しますか?

泉:自分はめちゃくちゃ時間がかかりますね。

押切:いやですよねえ。ネームに悩んでいる時間って。

泉:本当に……。

押切:原稿までいけば、あとはなんとでもなりますからね。何かをしながらでもできるし、手を動かしていれば何も考えなくてもいいくらいだから。

泉:原稿が一番楽しいですね。

押切:楽しいっすね。ネームは家でやられているんですか?

泉:そうですね。ほとんど家でやっています。特に車の中とか、密室でやるのが好きですね。昔はファミレスとかでもできたんですけど、今はもうできませんね。

押切:僕も絶対できないんです。喫茶店やファミレスでネームを描くのに憧れてるので、やってみるんですけど、なんか落ち着かなくて。それで「帰りたい」って思いながら描いていくとだんだんやっつけになって、つまらないネームになってしまうんですよ。

泉:帰りたいっていうのはわかります。

押切:僕たちはゲーマーですからね。家が一番なんです。

■怖いもの好きならではのお薦めホラー作品

押切:最近面白かった動画や配信のホラーはありますか?

泉:そうですね……。『ジェーン・ドウの解剖』は好きでしたね。

押切:ああ、いいですね。

泉:思っていた方向とは違う話だったんですが、とてもよかったです。

押切:劇場公開時に映画館に観に行って、音が素晴らしかったことをよく覚えてます。

泉:最近のじゃなくてもいいなら『エスター』とか『13ゴースト』とか好きです。

押切:あ、『13ゴースト』は懐かしいですね。

泉:いい感じのデザインのクリーチャーが13体出てきて。

押切:みんなえげつないデザインなんですよね。

泉:あれはいいですね。デザインの気持ち悪いクリーチャーが好きなんです。映画版の『サイレントヒル』とか。あと最近観たのでは、映画監督のギレルモ・デル・トロが製作総指揮を務めた『MAMA』がよかったですね。そこに出てくるママ”という存在のデザインが、また気持ち悪くて。押切先生は最近観たいいホラーってありますか?

押切:Netflixで何気なく観たらすごくよかったのが『テリファイド』ですね。アルゼンチンの映画で、日本やアメリカの感覚とはどこか違っていて、それがかえって気持ち悪いんですよ。クリーチャーなのか悪霊なのかなんだかよく分からないけれど、邪悪なものが迫って来るっていう。低予算なんだけど、僕には最高な映画でした。

泉:よさそうですね。これは観ます。

押切:泉先生が好きなクリーチャーが出るかは分かりませんが、雰囲気がすごく好きなんです。

泉:今の話であった「なんだか分からないもの」っていうのは、結構好きなポイントです。『見える子ちゃん』でも、作中で見えるものを「幽霊」って表記したことは一度もないんですよ。それは連載を始める時から決めていました。読者や周りの人は自由に呼んでいただいていいんですけど、原作サイドとしては決めつけない方がいいかなって思っています。

押切:デザインとしてはクリーチャーですものね。

泉:はい。何か分からない存在で、フワフワした状態である方が怖いかなと。

押切:何か分からないからこそ怖いっていうのはありますもんね。YouTubeの心霊系の動画みたいなのは観てますか?

泉:あまり観ないですかね……。作り物だと完全に分かっているものなら「このクリエイターは、どれほど怖がらせてくれるものを作ってるんだろう?」という目で楽しく観られるんですけど、「これ本物?」っていうのになると、怖くて眠れなくなっちゃいます。私は「作品」を観たいんですね。どう怖がらせようとして作っているのかとか、演出なんかを吸収したいんです。

押切:そうなんですね。僕は怖いものなら全部いけます。それこそ「ゾゾゾ」とか、心霊系のYouTubeばっかり観てますし。

泉:心霊系のYouTubeはうちの奥さんが好きなんですよ。最近は「デニスの怖いYouTube」とか観ています。

押切:デニスは最高です。

泉:「あれはいいよ。観なさい」って言われています。

押切:僕も四周くらいしています。あれは心霊系なんですけど、基本は「恐怖」と「笑い」なんです。恐怖の現場にいるからこそ笑いがめっちゃ引き立つ。あのバランスが心地いいんです。

泉:自分でそういう場所に行くのはどうですか? 「一人で廃墟に行ってください」って言われても行けますか?

押切:実はまさに昨日の夜中に一人でドライブして、お化けスポットにも行ったんですけど、全然平気でしたね。たぶん大丈夫な人かも。

泉:何も起こったことがないから平気なんですか?

押切:僕は起こってくれた方が嬉しいですね。何か起こったら一生それで食っていけるネタに昇華しますから。まず信じていないっていうのが大前提としてあるんですけど、そんな僕をどんだけびっくりさせてくれるんだろうって気持ちが強いんです。

■両作品の今後の展望は……?

――最後にお二人の作品の今後の展望を、お話しできる範囲でお聞きしたいです。押切さん、『おののけ! くわいだん部』は今後どうなりますか?

押切:展開っすか……単行本の一巻が出たばかりでまだ二巻の分もたまってないですけど、一巻の売り上げによっては、おそらく三巻で終わることもありますね……。

――全国高校怪談選手権が始まったばかりじゃないですか。

押切:売り上げとかに関係なく、「怪と幽」でやっていること自体がモチベーションでした。高橋葉介先生とか諸星大二郎先生に囲まれて連載させてもらえてることが、僕にとっては一番幸せなことなんです。ですが、単行本を刊行すると数字っていうものが出るじゃないですか。もしかして売り上げ的に編集長を悲しませているんじゃないかと……。

編集長R:いや、全然悲しんでないです。大丈夫ですよ。

押切:本当ですか? ま、終わりに向けて盛り上げていって、そこで何かの効果で急に売れたら、編集長も「じゃあ五巻までいきますか」って、ころっと気持ちが変わると思います。

――「怪と幽」の連載では、怪談選手権も二回戦に突入しますよね。

押切:はい、盛り上がっていきます。最終的に日本の半分がなくなるぐらいの展開にしていきたいですね。

泉:怪談大会からそこまでいきますか(笑)。

押切:怪談から世界規模の話になるんじゃないですかね。

――「週刊少年チャンピオン」で連載中の『ジーニアース』(秋田書店)と混ざっていませんか……?

押切:混ざってもいいんじゃないですかね、盛り上がるなら……。泉先生、次どうぞ。

泉:(笑)。『見える子ちゃん』は今ちょうど神社のお話が一段落して、日常パートに戻っていくところなんですけど、これから新キャラを登場させたり、怪異もちょっとグレードアップさせてみたり、これまでやっていなかったこともやっていきたいと思っています。それと、せっかく女子高生が主役なのに、六巻まで一度も季節の行事をやっていなかったので、そういった行事と怪異を無視するイベントを掛け合わせられたら面白いかなと思っています。

押切:ほう、楽しみですね。

泉:『おののけ! くわいだん部』も、どのように日本の半分がなくなるのか楽しみです(笑)。

押切:はい。でも編集長がやめろって言ったらやめますけど。

(本記事は「怪と幽」vol.009に掲載されたものを一部修正しました)

■作品紹介

『おののけ! くわいだん部』(1)
押切蓮介
https://www.kadokawa.co.jp/product/322101000282/

『見える子ちゃん』(1)
泉 朝樹
https://www.kadokawa.co.jp/product/321812000327/

「怪と幽」vol.009
https://www.kadokawa.co.jp/product/322003000370/

KADOKAWA カドブン
2022年01月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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