SFなのにユーモア満載?! 映画にも活かされた原作の魅力

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火星の人〔新版〕 上

『火星の人〔新版〕 上』

著者
アンディ・ウィアー [著]/小野田 和子 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150120436
発売日
2015/12/08
価格
704円(税込)

書籍情報:openBD

火星の人〔新版〕 下

『火星の人〔新版〕 下』

著者
アンディ・ウィアー [著]/小野田 和子 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150120443
発売日
2015/12/08
価格
704円(税込)

書籍情報:openBD

SFなのにユーモア満載?! 映画にも活かされた原作の魅力

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 宇宙を舞台にしたSF小説は、壮大過ぎる謎・哲学的考察・難解な言葉の羅列などで読む人を選ぶ傾向がある。しかし、本書は前向きで明るい主人公のキャラとこれまでの研究の成果をふまえたリアリティある内容で、SFファン以外にも熱狂的に受け入れられた。

 主人公マーク・ワトニーは植物学者兼メカニカル・エンジニアとして火星探査に参加。そして、火星の猛烈な砂嵐の中で事故死したと思われてしまう。チームは彼が生きているとは知らず地球へ帰還することに。彼らの宇宙船ともNASAとも通信が途絶し、次の探査チームが来るまでの4年間、彼は一人で生き延びることを覚悟。さあ、知識と技術を総動員だ。残された食料だけではいずれ餓死。ハブと呼ばれるわずか90平方メートルしかない(映画ではもっと広くて立派)居住スペースの3分の2を使ってジャガイモ畑を作る。肥料は仲間たちが残した排泄物と自分のものを溜めればどうにかなる。これを窓のないハブの中にぶちまけ、その横で暮らす。ウゥ、ページからも強烈な臭いが漂ってきそうな描写。その後、収穫したジャガイモが主食になってからの一文「食物繊維が多いから……」には吹き出した。こんなことを言うSF小説の主人公は初めてだ。でも、映画ではワトニー役のマット・デイモンがオナラ連発っていうのは、さすがにありませんでした(笑)。やがてNASAがワトニーの生存に気付き、救出作戦が計画されるが、難問山積。

 緊迫感がありつつユーモア満載でテンポある原作の魅力そのままにメリハリのきいた映画を作ったリドリー・スコット監督はさすが。マット・デイモンは他の俳優が考えられないほどワトニーのイメージにぴったり。’70年代ヒットナンバーが、タイトルや歌詞にドンピシャのシーンで挿入されて盛り上がる。彼がどんな時でも笑いと希望を失わずにいられたのは、科学への信頼と何よりも人間への信頼があったから。それに応えた沢山の人たち。救出成功時のみんなの笑顔が最高。

 映画は原作と同じタイトルだったのに邦題は『オデッセイ』に。『火星の人』の映画とは気付かずに危うく見逃すところでしたよ。

新潮社 週刊新潮
2022年1月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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