『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』伏見瞬著(イースト・プレス)

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

スピッツ論  「分裂」するポップ・ミュージック

『スピッツ論  「分裂」するポップ・ミュージック』

著者
伏見瞬 [著]
出版社
イースト・プレス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784781620350
発売日
2021/12/17
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』伏見瞬著(イースト・プレス)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)

聴く・読む 稀有の喜び

 4人組ロックバンド・スピッツのメンバーは全員1967年生まれ。評者は25年以上前から好きで聴いているが、彼らが自分と同学年であることを知ってから、彼らの創り出す音楽にますます惹(ひ)きつけられ、いまやファンクラブにも入り、毎日のように聴いて飽きないほど筋金入りのファンを自任している。

 とりわけここ数年は、出す曲、出すアルバム、開催するライブ(内容はもちろんコロナ禍での実施方法や共有の仕方に至るまで)がことごとく期待を超えているから、同年齢の者として、新曲を聴くたびに自分も頑張らねばと励まされている大切な存在だ。

 好き嫌いの次元を超えた対象が「論」と名づけられた本のなかで分析されることに期待を抱いた。客観的に論じられた本に接することにより、自分の好きさ加減や、何に惹かれたのかを自覚できるからである。大好きな書き手について論じた評論を読む経験とよく似た感覚だろうか。

 本書では、資本主義社会に生み出された複製芸術としての音楽を取り巻く音楽文化という大きな流れのなかに、デビュー直後の売れない時代から、売れるための試行錯誤をくりかえしたすえにバンド・サウンドに回帰するというスピッツの歴史を位置づけ、「分裂」を分析の軸として、様々な分裂(二極対立)項をもとにスピッツの詞やメロディが読み解かれる。

 分裂項とは、個人と社会、有名と無名、人間と野生、生と死といった概念である。分裂を抱えるからこそ、楽曲はかくも魅力的になる。文中に引用・言及される曲を、手元の再生機器でイヤホンごしに聴きながら読む。〈聴く〉と〈読む〉を往還しながらページをめくる、稀有(けう)にして心地よい読書を味わうことができた。

 「こういう意味(意図)の曲だったのか」と驚かされる指摘も多く、これから新たな気持ちでスピッツの曲を聴くことができる喜びに、いま包まれている。

読売新聞
2022年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加