『ドイツ・ナショナリズム 「普遍」対「固有」の二千年史』今野元著(中公新書)/『「歴史の黄昏」の彼方へ 危機の文明史観』野田宣雄著(千倉書房)

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ドイツ・ナショナリズム

『ドイツ・ナショナリズム』

著者
今野 元 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784121026668
発売日
2021/10/18
価格
1,056円(税込)

書籍情報:openBD

「歴史の黄昏」の彼方へ

『「歴史の黄昏」の彼方へ』

著者
野田 宣雄 [著]
出版社
千倉書房
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784805112403
発売日
2021/11/09
価格
6,160円(税込)

書籍情報:openBD

『ドイツ・ナショナリズム 「普遍」対「固有」の二千年史』今野元著(中公新書)/『「歴史の黄昏」の彼方へ 危機の文明史観』野田宣雄著(千倉書房)

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

民族と国家 独特の歴史

 現代史の関連書で「ドイツは過去の歴史を反省しているが、日本は反省も謝罪もしていない」と書いてある本には、眉につばをつけて接することにしている。人道に対する罪や戦争犯罪の問題を軽んじるつもりはないのだが、事実認識が間違っていることに加え、両国は近代国家としての歩みが大きく異なるのに、ともに第二次世界大戦の敗者だったという事情だけで同列に並べてしまう発想が、粗雑で耐えがたい。

 今野元の『ドイツ・ナショナリズム』は、ドイツの民族と国家がたどってきた独特の歴史を、巧みに解きほぐして見せてくれる。そもそも近世の神聖ローマ帝国の時代には、多くの領邦によって構成される複合国家であり、東欧地域へのドイツ人入植者がいた例に見られるように、外との境界もしばしば曖昧だった。

 この帝国は、キリスト教世界の普遍的な指導者としての「ローマ皇帝」の権威を担っていたが、やがてフランス大革命ののちには、新たに英米仏の立憲国家が普遍的な価値を掲げ、他国にも普及させるようになる。十九世紀のドイツ帝国の成立も、一九三〇年代のヒトラーによる「大ドイツ帝国」の構築も、「固有」の文化を模索しながら、「西欧」の国民国家の形を独自になぞろうとする努力であったと言える。

 そして、戦後の東西の分裂を克服し、ふたたび統一されたドイツが、今世紀に入ると国際社会で大きなリーダーシップを発揮するようになった。いまや「過去の克服」や環境保護を掲げることで、普遍的な価値を発信する国家として指導力をふるっている。そう今野は論評する。

 日本のドイツ研究が、ナチズムの悪をめぐる解釈にのみ集中してきたことに対する違和感を、今野は表明するが、同じ姿勢をとっていたドイツ史家として、一昨年亡くなった野田宣雄がいる。『「歴史の黄昏(たそがれ)」の彼方(かなた)へ』は、その傑作論文を集めた一冊。世代を異にする両著者の議論を比べてみるのもおもしろい。

読売新聞
2022年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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