『アスベストス』佐伯一麦著(文芸春秋)

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アスベストス

『アスベストス』

著者
佐伯 一麦 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163914794
発売日
2021/12/10
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『アスベストス』佐伯一麦著(文芸春秋)

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

 永遠の命を求めた古代エジプトのミイラの梱包(こんぽう)材には耐火性に優れ、腐食しにくいアスベスト(石綿)が使われた。語源はギリシャ語でまさに「永久不滅の」だが、それは諸刃(もろは)の剣であった。建材等に幅広く使われた現代、がん、中皮腫などの健康被害が広がり、「静かな時限爆弾」と恐れられる物質となったからだ。

 本書は、電気工をしていた20代に石綿の粉が肺に刺さり、胸膜炎の後遺症に苦しむ作家の「せき」など四つの短編小説を収める。年が近い職人の平穏な人生の暗転を、自らの半生と重ねる「うなぎや」は秀逸だ。

 主人公の祐二が兵庫県尼崎に生まれたのは「もはや戦後ではない」と言われた1956年。石綿関連工場に隣接する団地5階に思春期に引っ越し、「ええ風が入るわ」と親子で喜び、深呼吸した。高卒後は趣味の映画撮影に興じ、元気にうなぎ職人の修業を重ね、〈串打ち三年、割き八年、焼き一生〉の人生を夢見ていた。それが、いよいよ独立という時に発病、「無念や」と言い、48歳で亡くなる。

 ふいに断ち切られた人生に、〈焼き一生〉という格言は、つらく悲しく響く。

読売新聞
2022年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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