個性豊かな女三世代が贈るユーモアミステリ開幕!――赤川次郎『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』文庫巻末解説

レビュー

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三世代探偵団 次の扉に棲む死神

『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』

著者
赤川 次郎 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041113240
発売日
2021/12/21
価格
836円(税込)

書籍情報:openBD

個性豊かな女三世代が贈るユーモアミステリ開幕!――赤川次郎『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』文庫巻末解説

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

■角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

■赤川次郎『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』

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■赤川次郎『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』 文庫巻末解説

解説
香山二三郎  

 赤川次郎の作家デビューは一九七六年。短篇「幽霊列車」でオール讀物推理小説新人賞を受賞したのがスタートだった。デビュー時はサラリーマン兼業だったが、作家専業となったその二年後には、長篇『三毛猫ホームズの推理』や『セーラー服と機関銃』のヒットで早くもベストセラー作家に。
 その後の活躍ぶりは多くの人の知るところで、デビュー四〇周年に当たる二〇一六年には長篇『東京零年』で第五〇回吉川英治文学賞も受賞、著作数は今や六〇〇冊を超えているが、創作意欲が衰えるどころか古希を過ぎても健筆は勢いを失っていない。
 本書『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』はそんな著者が二〇一七年、映画のスクリプター(記録係)の女性が撮影現場で殺人事件に巻き込まれる『キネマの天使 レンズの奥の殺人者』とともに新たに発進させたシリーズの第一作である。
『キネマの天使』が映画界を背景にした話なら、本書は演劇のエピソード(といっても、名だたる商業演劇ではなく、いわゆる小劇場系だが)から始まる。
 高校一年生の十六歳、天本有里は母・文乃の高校の同期生・風宮悠二が主宰する劇団〈空洞〉の新作〈夕暮姉妹〉に母とともに出演していたが、文乃はドレスの裾を踏んづけて階段から転げ落ち、風宮の妻さくらが代役を務めることに。しかし今度は、階段上に現れたさくらがそのままうつ伏せに倒れてしまう。背中には真っ赤な血が。
 のっけから血なまぐさい展開だが、世の赤川ファンなら、本作のタイトルから即、著者の代表作のひとつ『三姉妹探偵団』を思い浮かべるに違いない。『三姉妹探偵団』も父親が留守の佐々本三姉妹の家が火事で全焼、焼け跡から女性の死体が見つかるという派手な幕開けだったが、本書も負けてはいない。ちなみに天本家は、海外にもその名を知られる画家の幸代(七二歳)を筆頭に、文乃(バツイチの四〇歳)、有里と女三代が海辺の小さな町、海鳴町で暮らしている。祖母の幸代は一家を支える文字通りの大黒柱だが、文乃は根っから天然の童顔で、有里は祖母似のしっかり者美人。
 本作は有里を中心に、思いもよらない犯罪に巻き込まれた女三代の活躍と絆を描いた長篇ミステリーなのだ。
 さて、殺人現場となった劇場には幸代も観劇に来ており、物語はそのまま殺人事件の推理へと移っていく──と思ったらちょっと違う。なるほど有里は目の前で倒れたさくらが「文乃さん……」というのを聞いたし、彼女は刑事の村上良治の現場検証に付き合ったりもするが、だからといって即謎解きに挑むわけではない。劇団〈空洞〉の芝居にはほかにも多くの人が見に来ており、物語はそうした周辺人物たち──たとえば、有里の通う興津山学園の同級生・城所真奈や事務室の職員・三田洋子とその弟・広士等の視点を通したエピソードが織り込まれていくのだ。
 いや、劇場に来た人だけではなかった。三田洋子の上司で事務長の原口恒子なんかも怪しい行動を洋子に見とがめられ脅迫される羽目になる。周辺人物の中には、当然ながら、原口のように、事件に関わりがありそうな人物も交ざっているわけで、本作はそうした複数の視点から描かれていく、いわゆる群像小説のスタイルを取っている。
 けだし、著者の十八番のひとつというべきか。
 中でも注目は、三田姉弟を待ち受けているドラマだろう。洋子は職場では皆のお姉さんとして親しまれ真面目一筋に生きてきたのだが、原口恒子の秘密を知ってしまったがために恋愛沼にはまることに。それは弟の広士も同様で、彼は街でアケミというホームレスめいた女をひろって近くの安宿に連れ込んだはよかったが、つかの間の関係とはならず、どこか陰のあるこの美女にはまってしまう。実はアケミという女、ヤバい筋の者で、詳細は明かせないが、リュック・ベッソン監督の映画『ニキータ』のヒロインさながら、といえば、おわかりいただけようか。アケミはアケミで、大して取り柄もない広士との恋愛沼に何故かずぶずぶとはまっていくのである。
 むろん天本家の三人にも思わぬ出会いがあり、幸代さんは知り合いの病院の壁画制作という大仕事を引き受け、文乃さんは何と別れた亭主(有里の父親でもある)にストーキングされ、有里は永田エリという転校生と仲良くなるのだが、そうこうしているうちに、新たな殺人事件が……。
 かくして事態はますます錯綜していくが、原口恒子と三田洋子の絆にアケミの素性やら永田エリの父親の正体が結びつき始めると、一連の騒動にはどうやら黒幕らしき者がいるらしいこともわかってくる。そしてそれが、興津山学園の闇に深く関わっているらしいことも。冒頭で筆者は本作が演劇ものであるかのように書いたが、かくて中盤からはむしろ、学園ミステリーの様相を強めていくのだ。
 著者は学園の文化祭に合わせて、城所真奈の身に危機が迫るなど、そこからも決して手綱をゆるめることなく、さらなる謎を増幅してみせる。
 いやそれにしても、今般現実のニュースで報じられている国内最大のマンモス大学の資金不正流出事件を予見するかのような学園スキャンダルが題材とは。著者はコロナ禍の中、東京五輪開催を強行した政府を批判する声明を出すほどの硬派でもあるが、本作からは、そんな不正をただそうとする社会派趣向もうかがえよう。
 ところで、二〇二一年一一月にスタートしたNHKの朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』はラジオ英語講座を通して「三世代の女性たちが紡いでいく、一〇〇年のファミリーストーリー」というのが謳い文句。その三世代とは、もちろん昭和、平成、令和を指すわけだが、その着想をいうなら、二〇一七年刊の本作のほうが一足早かったということを強調しておきたい。
 それというのも、著者が本作の着想を得たのは、明仁上皇が退位の意思を表明され、新しい時代を迎えることが確定したことがきっかけだったのではないかと思うからだ。本作には具体的な年代は記されていないが、幸代さんが昭和、文乃さんが平成、有里が令和を象徴する女性に設定されていると思われるゆえんである。
 なお、シリーズ第二作『三世代探偵団 枯れた花のワルツ』も本書と同時に文庫発売されている。シリーズは現在『三世代探偵団 生命の旗がはためくとき』まで刊行中、「三世代探偵団4 春風にめざめて」も近刊予定なので、天本家の三人とお近づきになりたい方は、本作に引き続きぜひ!

■作品紹介

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三世代探偵団 次の扉に棲む死神
著者 赤川 次郎
定価: 836円(本体760円+税)
発売日:2021年12月21日

祖母、母、娘。個性豊かな女三世代が贈る痛快ミステリ、開幕。
天才画家の祖母と、生活力皆無でマイペースな母と暮らす女子高生の天本有里。彼女が出演した舞台で、母の代役の女優が何者かに殺された。有里の目の前で倒れた被害者が最後に口にしたのは、母の名前だった。彼女の身に何が起きたのか。事件を追ううちに、3人の周囲に次第に不穏な影が忍び寄り……?個性豊かな女三世代が贈るユーモアミステリ開幕!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322101000253/

KADOKAWA カドブン
2022年01月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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