秘話にこぼれ話に“泡沫候補の真価”まで 決定版「選挙の楽しみ方」ガイド

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コロナ時代の選挙漫遊記

『コロナ時代の選挙漫遊記』

著者
畠山 理仁 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087880670
発売日
2021/10/05
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

秘話にこぼれ話に“泡沫候補の真価”まで 決定版「選挙の楽しみ方」ガイド

[レビュアー] 吉田燈(衆議院議員秘書)

「選挙で当選するために絶対必要な条件がある。まずは『立候補する』ことだ」

 本書に登場する「当たり前」のように見えるこの条件の難しさをご存知だろうか。世界一高額と云われる供託金を払い、煩雑な届出を済ませ、晴れて候補者たちは立候補というスタートラインに立つはずが、一部の候補者には早速ハンデが課せられる。

 メディアによる「主な候補者」選びに落選した「その他」の候補者は、そもそも報道すらされない。公平公正であるはずの選挙において、勝手に「泡沫候補」などとレッテルを貼る選挙報道のあり方を、有権者はごく自然に受け入れている。

 著者は、大手メディアが決して光を当てることのなかった候補者たちにも取材し、テレビや新聞では語られない「候補者たちの声」を独自に届けてきた。第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した前作『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』に続き日本各地で行われた選挙を「漫遊」し、実際に候補者たちに会って取材をする理由を、「世の中に同じ選挙は二つとない。どこへ行っても毎回違った何かが起きる。面白い人や信じられない場面に出くわす」と語る。

 本書には、宿泊先のホテルのスタッフにポスターを貼らせる候補者や、「私に投票したって言ってたけど、なんでだろうね」と首をかしげる候補者、選挙事務所でおかしな言葉を叫ぶ人などが登場する一方で、全ての候補者を丁寧に取材してきた著者だからこそ知ることができたであろうエピソードも惜しみなく披露される。大手新聞に別人の顔写真が掲載された候補者や、候補者が親身に相談を聞いてくれたことを機に選挙の手伝いをした選挙区外の人の話など枚挙に遑がないが、特筆すべきは、大手メディアが報じなかった「その他」の候補者たちが選挙戦で訴えた、宝の山と呼ぶべき政策の数々だろう。コロナ禍で提唱された感染予防のためのある取組や、涙を呑んだ候補者が唱えたのと同様の政策が東京都で実施された例を見れば、きっと読者は感じるはずだ。彼らは決して「泡沫」などではない。

 直近の衆院総選挙は投票率わずか55.93%、戦後3番目に低い数字であったという。選挙はそれほどまでに魅力がないのか。著者は「選挙は楽しむものだ」と断言する。立候補者がいてこそ成立する選挙を楽しみ、その楽しみ方を有権者に届けるために愛情と敬意をもって候補者に寄り添う著者に、一人の有権者として賛辞を送りたい。

新潮社 週刊新潮
2022年1月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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