心ときめく楽しい火星入門書
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
読者諸兄姉のなかには、かつて「地球の歩き方」シリーズ(ガイドブック)を片手に遠い国まで出かけた方が少なくないでしょう。わたしも頼りにした。臼井寛裕・野口里奈・庄司大悟『火星の歩き方』を書店で見かけたときは、だから笑顔になってしまった。火星旅行はまだ手の届かぬ夢。しかしこうしてガイドブックが先行発売されたことに心ときめいてしまう。
火星を旅するとき、どこを回れば「火星を見た」といえるのか。町があるわけではないから、見どころは自然の地形ということになる。それが驚きのスケールなのだ。火星最高峰のオリンポス山は、標高がなんと2万メートル以上。富士山でさえ、ふもとからふり仰げばあれだけ巨大なのに、2万メートル級の山はどんなふうに見えるだろう。
火星には海がなく(かつてはあった)、「標高」は海面を基準にすることができない。ではどう測るのか、といったこともこの本でわかる。アメリカの天文学者が示した登頂ルートも紹介されている。宇宙服や酸素調達の問題を考慮に入れない空想登山でも、頂上まで1か月弱。水平方向の移動距離もすごい。
地形図や地表の写真を見ながら想像する火星一周。その一方で、火星に生物さえいなかったら(一部にはいる可能性もある)環境を改変してもいいのかという問題などについても言及されている。著者である研究者三人の興味関心のありかも伝わってきて、楽しい火星入門書だ。