『「影の首相」官房長官の閻魔帳』
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産経新聞の名物コラムニストが歴代長官30人の功罪を断ずる
[レビュアー] 松島奈巳(演劇記者・ライター)
歌舞伎や宝塚・ミュージカルを専門にしつつ、政治評論や内幕ものを愛読している。
祖父が、自民党の県議会議員だった。日常会話で政治ネタが交わされ、小学生にして河本敏夫代議士のあだ名が「笑わん殿下」と知っていた。
二十代には週刊誌で政治取材に携わった。島桂次・NHK会長辞任の翌朝には、議員会館で野中広務に1対1で取材した。石原伸晃の初出馬では、杉並区の選挙事務所を訪ねている。
著者は、一面コラム「産経抄」を執筆してきた政治記者。「長期政権の要諦は、靖国参拝」など、荒唐無稽にみえながら核心をつくコラムを物している。
本書には、竹下政権の小渕恵三から現職まで30人に及ぶ官房長官の功罪が5つ星の採点とともに記されている。トリビアなエピソードとしては、
〈内閣改造で、宮沢(喜一)は加藤(紘一)を再任せず、ライバルの河野洋平を官房長官に起用した。/宮沢は生涯、ソリがあわなかった大蔵省の先輩でもある大平正芳に近かった加藤に全幅の信頼を置いていたとは言い難く(後略)〉(※括弧内は評者補記)
仮定の話にもキッパリと私見を開陳して、
〈もし安倍(晋三)が第一次政権の最初から塩崎(恭久)ではなく、与謝野(馨)を官房長官に起用していたなら平成・令和の政治はまったく違ったものになっていたはずだ〉
満点は、橋本政権の長官で、
〈ごくごく希に、この人に総理大臣をやってもらいたい、目指してもらいたい、と心底思う人物に出くわすこともある。/梶山静六は、そんな数少ない政治家の一人だった〉
記者としての矜持は、こんな一文に垣間見える。
〈産経も朝日も読売も全部同じ「主張」をしだしたら、この国もおしまいである〉
震災における自衛隊出動の遅れなど、平成には官邸の判断ミスによって残念な事態が幾つも続いた。原因はコミュニケーション不全、楽観主義、先入観、無謬性だったとよくわかる。
本書は、5つ星で採点というコンセプトからお手軽な印象をぬぐえない。しかし「おわりに」によれば、政治家自身が残した自叙伝や聞き書きを精査して執筆されている。
産経新聞史観をまとってはいるものの、平成版「失敗の本質」が記録された。後世にとって貴重な他山の石となるだろう。なにより、これからの官房長官にとって必読の書である。
ところで、なのですが。今の長官、フルネームで言えます?