「美しくもおぞましい吸血鬼SF」はジャンル小説愛の集大成

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愚かな薔薇

『愚かな薔薇』

著者
恩田陸 [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784198653477
発売日
2021/12/24
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

「美しくもおぞましい吸血鬼SF」はジャンル小説愛の集大成

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 2006年に「SF Japan」で連載開始。同誌休刊とともに「読楽」に引っ越して、2020年に完結。14年にわたるこの大河連載が、ついに単行本化された。ハードカバー600ページ弱の物量を誇る『愚かな薔薇』の初版単行本には、本来のカバーの上に「萩尾望都さん描き下ろし期間限定カバー」(という名の、フルカバーよりちょっと天地が短いサイズの帯)がかぶさり、「美しくもおぞましい吸血鬼SF」と記されている。もっとも、小説の中身は、ふつうに想像されるヴァンパイアものとはずいぶん様子が違う。

 物語の主人公は、14歳の少女・高田奈智。母方の故郷にあたる磐座をひとりで訪れた奈智は、4年ぶりに会う親族が経営する旅館に滞在し、近くで開かれる“キャンプ”に参加することになっていた。キャンプの目的は、星々の世界に旅立つ能力を持つ特殊な人材、“虚ろ舟乗り”を育成すること。要するに、異星テクノロジーの産物である宇宙船を操縦して恒星間航行できるニュータイプ(もしくはチルドレンまたはキルドレ)を人類が必要としているという設定。一種のパワースポットである磐座に集められた少年少女は徐々に体質が変化し、やがて不老不死の“変質体”になるというのだが……。

『ポーの一族』ミーツ『エヴァンゲリオン』と言えなくもないが、異星船の操縦にはヴァンパイア化が不可欠という設定は必ずしも小説の核心ではない。少年少女の通過儀礼が吸血鬼化に重ねられ、さらに宇宙への旅立ちにつながる。濃密なエロスと血の匂いとバイオレンス。構造的には、世界の秘密を発見する本格SF(または共同体の謎を解く本格ミステリ)だが、同時にファンタジーでありホラーであり伝奇小説であり思春期小説でありラブロマンスであり少女漫画であり……と自在にジャンルを横断し、見たことのない世界へ読者をいざなう。恩田陸のジャンル小説愛の集大成とも言うべき大作だ。

新潮社 週刊新潮
2022年2月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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