ネットフリックスが奪ったノスタルジーの王国

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ビデオランド

『ビデオランド』

著者
ダニエル・ハーバート [著]/生井英考 [訳]/丸山雄生 [訳]/渡部宏樹 [訳]
出版社
作品社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784861828751
発売日
2021/11/30
価格
3,740円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ネットフリックスが奪ったノスタルジーの王国

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 社会文化学者によるアメリカの「レンタルビデオ店盛衰史」。アカデミックな研究でありつつレンタルビデオ店という特別な空間への愛情があふれていて、それは著者が学生時代に働いたマニアックなレンタルビデオ店での経験が大きく影響している――「ビデオストアは単に映画が並んでいるだけの場所ではない。通路に沿った棚の前や店員のいるカウンターで交わす会話やその他もろもろのやり取りが、ビデオストアという空間をつくっているのだ」(「序」より)。

 郵送によるビデオやDVDのレンタルを業務としてネットフリックスが創業したのが1997年。それから20年かそこらのうちに全米のレンタルビデオ店はバタバタと廃業に追い込まれ、いっぽう配信による映画視聴サービスが隆盛を極めていく。アメリカの状況から数年遅れで動いてきた日本の映画レンタル・配信産業もまったく同じパターンをなぞっているのはご存じのとおり。レンタルの全国統一を成し遂げたTSUTAYAなど大手が急激に店舗数を減らすいっぽう、コロナ禍でネットフリックスやU-NEXTなどの配信サービスが家ごもりを下支えしてくれたのも確かで、長い目で見ればハリウッドの大作も、マニアックなB級や実験映画も等しく、全国どこでも視聴できるようになった現在のほうが、もちろんいい。

 とはいえ! あの、在りし日のビデオ店に通い、パッケージに印刷された小さな写真や煽り文句を吟味し、行間を読み、長い時間をかけてレンタルするビデオを選んだ楽しい時間を覚えているひとたちにとって、もしかしたらレンタルビデオ店が消えていくのは、お気に入りの名画座が消えていくより哀しく、ノスタルジックな思い出かもしれない。「アメリカのレンタルビデオ屋の歴史なんて」と思うかもしれないけれど、これもまた現代のアメリカーナを描き出す、野心的な試みなのだ。

新潮社 週刊新潮
2022年2月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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