『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
「させていただきます」が気になるアナタに
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
さて! 本日ご紹介させていただきますのは……なんて通販CMに出くわすたび、「嫌だ。断る。紹介させない」とお腹立ちの皆の衆、つまりは「させていただきます」の慇懃無礼&氾濫に我慢がならないワタシやアナタにとって見逃せない書の登場です。題して『「させていただく」の使い方』。
著者の椎名美智は歴史語用論やコミュニケーション論の研究者で、去年上梓の『「させていただく」の語用論』(ひつじ書房)が話題になったけれど、アッチは専門書ならではの硬さと高価さゆえ敷居が高かった。一方コッチは言わばその新書版、まず買いやすさは当然として、驚くべきは読みやすさ。「解散させていただくことになりました」と腰を折ったSMAPと「解散します」と胸を張ったV6の解散宣言の比較から始まる前書きは見事なエッセイだし、文法やら統計やら言語学の小難しい部分に触れる本文でも引っかかりがないのは、説明の巧みさと余談の挟み方のうまさゆえ。
肝心の「させていただく」語法やその濫用についての調査分析の納得度が高いのは前著『~語用論』由来だとして、そこから導き出される洞察は、学術書ではない新書だからこそ山盛りで、いや蒙、啓かれまくり。相手が誰かわからないマスメディアやネットでこそ敬語のインフレが加速するとか、他者に敬意を示すものだった敬語が今では自身の謙虚さを打ち出すものに変化しつつあるとか、教えられるのは日本語の今だけじゃなく、ニッポンの今です。