消えた球団 1950年の西日本パイレーツ 塩田芳久著

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消えた球団 1950年の西日本パイレーツ

『消えた球団 1950年の西日本パイレーツ』

著者
塩田芳久 [著]
出版社
ビジネス社
ジャンル
芸術・生活/体育・スポーツ
ISBN
9784828423487
発売日
2021/11/20
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

消えた球団 1950年の西日本パイレーツ 塩田芳久著

[レビュアー] 満薗文博(スポーツジャーナリスト)

◆プロ野球草創期に哀史刻む

 この書評を書いている私は一九五〇年の生まれである。だから、例えば、その年に勃発した「朝鮮戦争」のフレーズに敏感に反応する。だが、同じ年にたった一年間だけ存在したプロ野球の「西日本パイレーツ」球団があった、と言われても反応が鈍い。九州で生まれ育ったから、全く知らなかったワケではない。ただ、おぼろげのまま、時が過ぎていた。消滅から七十年の時を経て、その「幻」に迫ったのが本著である。

 戦後の混乱期に、いかにしてこの球団は誕生し、いかなる理由で消滅(表面上は、西鉄クリッパースとの合併)したかに著者は迫る。西鉄は愛称をライオンズに変え、以後黄金期を経て、太平洋クラブ→クラウンライター→西武へと変遷して現在に至っている。

 パイレーツの親会社は西日本新聞社だった。今回、非常に乏しい資料、動きのままならないコロナ禍にあって苦闘しながら本著を書いたのは、同社の五十代半ばの記者である。忌憚(きたん)なく言わせていただければ、かつて自社が保有したプロ野球球団が、わずか一年で消滅した歴史の背景に迫るには、それなりの勇気、覚悟が必要だっただろう。

 一九五〇年、日本のプロ野球がセ・パの二リーグ制で船出したとき、当時の福岡市の人口は約四十万人。この地に、セに西日本、パに西鉄のプロ二球団が存在するのは非常に難しかったはずである。その背景にある、なぜか、複雑な事情も語られるが、ぜひ本著で読み解いていただきたい。

 一年だけしか存在しなかった、この球団の球史は多くは語られないまま時が過ぎた。だが「プロ野球史上初めて完全試合を喫した球団」として名前がしっかり残る。青森で巨人の藤本英雄投手に喫している。短命だったこの球団には、喜怒哀楽のうち、哀が色濃い。だが、著者はかつての「自社球団」の無念ともしっかり向き合ってペンを握っている。

 セ・パ各六球団があたりまえのいま、七十年前のプロ野球草創期をたどる旅に出てみるのも味わい深い。

(ビジネス社・1760円)

1966年生まれ。西日本新聞記者。

◆もう1冊

野球雲編集部編『消えた球団 高橋ユニオンズ 1954〜1956』(ビジネス社)

中日新聞 東京新聞
2022年1月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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