『ビルマ 危機の本質 The Hidden History of Burma』タンミンウー著(河出書房新社)

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ビルマ 危機の本質

『ビルマ 危機の本質』

出版社
河出書房新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784309228334
発売日
2021/10/27

書籍情報:openBD

『ビルマ 危機の本質 The Hidden History of Burma』タンミンウー著(河出書房新社)

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

「民主化VS軍」への疑義

 ミャンマー問題の本質とは何か。ウ・タント元国連事務総長の孫で、ミャンマー=ビルマ問題に直接間接に関わってきた著者は、人権・民主対軍事独裁、アウンサンスーチー対軍などのお決まりの対立構図に疑義を呈する。危機の本質は、複雑の極みともいえる民族問題と経済的貧困にあり、このままではミャンマーは破綻国家となると警告する。

 ミャンマーは仏教徒のビルマ人が過半を占めるが、多様な少数民族と言語、宗教を抱える多民族国家である。歴史をたどると、民族間の争いと中央との戦いが絶えなかった。ビルマは19世紀後半から英国の植民地となったが、地域分断統治により国としての一体感は失われ、民族紛争の種が温存されたと著者は言う。

 1948年ビルマは英国から独立したが、共産主義者、カレン族、イスラム教徒の反乱が勃発、国内は混乱が続いた。62年には軍事クーデターによりネウィン政権が誕生、88年の民主化運動のなかで倒れたが、再び軍事クーデターが発生し、タンシュエ政権が長く続いた。

 だが、次のテインセイン政権は大胆な政治・経済改革に着手した。これに共鳴した著者は直接に政権の顧問となり、民主化以前に民族融和の交渉を試みたが、厳しい現実の前に、その目論見(もくろみ)は挫折した。この辺りの過程描写はリアルだ。

 88年以後、アウンサンスーチーが民主化の英雄として登場、度々軟禁状態となるが、2015年の総選挙で民主化を前面に押し出す彼女の党が大勝し、文民政権に移行した。しかし、軍によるイスラム系住民弾圧のロヒンギャ問題が発生、大半のビルマ人が弾圧を支持するなかアウンサンスーチーも沈黙、世界は彼女に落胆した。本書を通じて、著者とスーチーの微妙な関係が読み取れる。

 原書出版後の20年11月の総選挙でスーチーの党は再び大勝、だがまたもや軍のクーデターで彼女は拘束された。市民の抵抗は続いている。なぜ歴史は繰り返すのか。本書を通読すれば、軍を肥大化させたミャンマーの歴史と社会の現実が鮮明に理解できよう。中里京子訳。

読売新聞
2022年2月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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