『クダン狩り』
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クダン狩り 予言獣の影を追いかけて 東(ひがし)雅夫編著
[レビュアー] 横山泰子(法政大教授)
◆コロナで脚光の妖獣
予言獣という言葉をご存じだろうか。
この言葉が使われはじめたのはおよそ二十年ほど前。「言葉を話し、未来を予言する幻獣」が「予言獣」と名づけられてから今日まで、この言葉は特殊な専門用語として研究者や妖怪マニアには知られていたものの、一般に認知されてはいなかった。ところが、この言葉の知名度は新型コロナウイルスの流行とともに突然急上昇した。流行病を予言し、自分の姿を写して疫病の難を避けるよう伝えたとされる「予言獣アマビエ」が注目されたためである。
では、予言獣とは何だろう。その問題に迫るには、予言獣「クダン」について語らない訳にはいかない。半人半牛のクダンは生後すぐ予言して死ぬ。予言は必ず的中するとされたが、その内容は悪疫の大流行や戦争という禍々(まがまが)しさであった。
著者の東雅夫は、「予言獣」という言葉の流行以前からクダンに関心を抱き、クダンの伝説を日本各地に追った文芸評論家である。二十年前に東の書いた「クダン」関連の文章を一冊にまとめたものが本書だが、その内容は古びるどころか、貴重な記録として妖しい輝きを見せている。これまでジャンルを問わず書かれてきた様々(さまざま)なクダン文学の中で、有名どころは内田百閒の「件(くだん)」、小松左京の「くだんのはは」であろう。この二作が本書に収められており、読者は手軽にクダン文学に接することができる。
「クダン対談 クダン研究の最前線」と題した東雅夫×笹方政紀(怪異学研究者)の対談が、予言獣の本質に迫る。対談で笹方は「最近ではクダンは凶事というか、何かの大異変が起こるときに現れる存在だとされていますから、あまり愛されるキャラクターではないのです」、東は「クダンは見た目にも怪しいものがありまして、作家の妄想をかきたてるような異化作用があるのでしょう」と述べる。近年の作品も紹介され、ブックガイドとしても役立つ。
愛されるアマビエVS怖がられるクダン。日本の予言獣の世界、まことに奥が深いと知る。
(白澤社・1870円)
1958年生まれ。アンソロジスト、文芸評論家。著書『遠野物語と怪談の時代』など。
◆もう1冊
近藤ようこ漫画、津原泰水(やすみ)原作『五色の舟』(ビームコミックス)。見世物屋として暮らす家族が「くだん」を一座に加えようとする。傑作幻想譚を漫画化。