『戦後革新の墓碑銘』
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戦後革新の墓碑銘 高木郁朗著
[レビュアー] 小西德應(明治大教授)
◆証言でたどる一大勢力の盛衰
昨年の衆院選や近年の政治状況を見るまでもなく、社民党は今や風前のともしびである。だが社会党時代には二人の首相を輩出し、五五年体制下では二大政党制の一翼を担った「戦後革新」勢力であり、同党を支える労働勢力の総評と共に「社会党・総評ブロック」を形成していた。
その社会党と総評の二つの組織で、ブレーンや裏方として尽力した自伝的な「戦後革新」の証言である。一九五〇年代初めの中学生時代から社会問題に関心を深めた著者は、大学生の時に社会党の活動に参加した。社会党職員として成田知巳委員長のゴーストライターを務め、綱領的文書とされていた「日本における社会主義への道」に代わって八六年に採択された『新宣言』の原案を書き、村山富市首相にリベラル政党として再出発する必要性を説いたことなどが具体的に記されている。
また、社会主義協会派と反協会派などの党内抗争、大学教員としての体験、社会党を支えた人々のエピソードなど、その時々の体験や発見がちりばめられている。背景は書かれていないが、社会主義協会代表を務めた向坂(さきさか)逸郎が「妻たるものはいつも夫から三尺遅れて歩きなさい」「憲法は不磨の大典ではない」と発言していた点は興味深い。
もっと聞きたい部分があるが、社会党や総評に関する書籍は近年だけでも、二十人に聞き取りをした『日本社会党・総評の軌跡と内実』、新聞記者として取材した宇治敏彦『実写1955年体制』などがある。通史を描く本書と併せて読めば「革新」の盛衰がより立体的に見える。
戦後革新が期待した役割を果たせなかったと考える著者は「墓碑銘」を書名に用いたというが、貧困の急拡大や戦争の恐怖の増大など、新冷戦が叫ばれる今こそ、新たに取り組むべき問題がある。その際に重要なのは、リベラルや戦前にはファシズムの意味だった「革新」など、時代状況や各人の解釈でイメージが変化する旗印ではなく、強い信念と具体的対策、持続的行動なのだろうと逆説的ながら本書が再認識させてくれる。
(中北浩爾編、旬報社・1980円)
1939年生まれ。日本女子大名誉教授。著書『国際労働運動』『春闘論』など。
◆もう1冊
薬師寺克行編『村山富市回顧録』(岩波現代文庫)