『海坂藩に吹く風 藤沢周平を読む』湯川豊著(文芸春秋)

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海坂藩に吹く風 藤沢周平を読む

『海坂藩に吹く風 藤沢周平を読む』

著者
湯川 豊 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163914787
発売日
2021/12/09
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『海坂藩に吹く風 藤沢周平を読む』湯川豊著(文芸春秋)

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)

 海坂藩とは、藤沢周平が創った江戸時代の架空の藩であり、出身地である出羽庄内藩をモデルにしている。本書は、著者が偏愛する藤沢作品について、海坂藩物、剣術物、女性が印象的な小説、市井物、歴史小説、伝記といったジャンルごとに魅力が語られる。

 身も蓋もない言い方をすれば、好きなものをいかに好きか述べた本である。「稀(まれ)に見る」「じつにみごと」「完璧」「心惹(ひ)かれた」など、意外なほど素直な褒詞が目に飛びこんでくる。

 こんなとき、語り手のおびる熱量は押しつけがましさに変わることが多く、読み手は辟易(へきえき)となるものだ。しかし読んでみるとまったくそう感じない。著者が藤沢作品のどこに感動し、その何が良いのか、作品に即し手間を惜しまず丁寧に順序立てて説明し切っているからだ。文芸評論のあるべき姿と言えよう。「小説を、作家の実体験で読み解こうとするのは間違い」という著者の信念が背景にある。

 熱をおびながらも抑制された文章により作品が紹介されると、小説中の人物の息づかいが感じられ、生身の人間が目の前に立ちあらわれたような気がした。

読売新聞
2022年2月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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