『西南戦争のリアル 田原坂』中原幹彦著(新泉社)

レビュー

5
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

西南戦争のリアル 田原坂

『西南戦争のリアル 田原坂』

著者
中原幹彦 [著]
出版社
新泉社
ISBN
9784787721334
発売日
2021/12/13
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

『西南戦争のリアル 田原坂』中原幹彦著(新泉社)

[レビュアー] 堀川惠子(ノンフィクション作家)

発掘が明かす近代内戦

 考古学といえば、古墳や土器など古代を紐(ひも)解く研究と思われがちだ。本書はその考古学的な手法を駆使して、近代日本最後の内戦・西南戦争を分析。伝承のイメージで語られがちな戦史をリアルに描いた。

 数年前、西郷隆盛らの足跡を辿(たど)って熊本の戦跡を取材して歩いたことがある。驚いたのは当時の地形がほとんど変わらず残っていたこと。郷土史家の著者はその現場で、塹壕(ざんごう)跡や銃弾・薬莢(やっきょう)などの散布地、弾痕の残る樹木や岩までも遺跡として徹底的に発掘、X線による成分分析や古写真、証言などを総合的に調べた。

 物量に勝る政府軍が薩摩軍を圧倒したというのは常識に属する話。しかし、本書の舞台となる田原坂の戦いでは様相が異なった。たとえば雨が降り続く中、薩摩軍は旧式の前装エンフィールド銃で苦戦したといわれる。しかし調査では関連遺物の約8割が最新の後装スナイドル銃で、その装備は一般に伝わるほど劣勢ではなかったことが判明。一方で薩摩軍の大砲には不発弾が多く見つかった。砲兵工廠(こうしょう)を持つ政府軍に比べて火薬の質は劣っていたようだ。

 薩摩軍の主要陣地では、従来いわれてきた本道や台地での戦闘に加え、東西3キロ南北4キロにわたる広範囲が戦場であったことを確認。金属探知機を使って立木の中からも銃砲弾を「出土」させ、飛来方向を分析する手法は圧巻だ。過去の文献資料に記載のなかった両軍の陣地や戦闘の詳細を地図上に書き込むことが可能になり、戦史としての学術的価値も高い。

 西南戦争を描いた大作といえば司馬遼太郎著『翔ぶが如く』。郷土史家と交流の深かった司馬さんがこの研究を知ったらさぞ喜んだのでは。私も自著の記述を再点検するつもりだ。

 郷土への愛情と、新たな手法で歴史を見つめ直す挑戦。コアな歴史ファンはもちろん、西南戦争をテーマとする研究者や作家にとっても必読の書となりそうだ。

読売新聞
2022年2月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加