『日本の対中大戦略』兼原信克著(PHP新書)最先端科学技術を安保に

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

日本の対中大戦略

『日本の対中大戦略』

著者
兼原, 信克, 1959-
出版社
PHP研究所
ISBN
9784569850924
価格
1,078円(税込)

書籍情報:openBD

『日本の対中大戦略』兼原信克著(PHP新書)最先端科学技術を安保に

[レビュアー] 岡部伸(産経新聞論説委員)

先端技術は中国に筒抜け。科学技術と安全保障が遮断され、韓国にも後塵(こうじん)を拝し、米英豪の軍事同盟AUKUS(オーカス)に招かれない―。内閣官房副長官補、国家安全保障局次長として7年間、第2次安倍晋三政権を支えた筆者が警鐘を鳴らす。

本書は、中国に対応する外交や軍事などの国家戦略を綴(つづ)ったものだ。前文で、日本には「自由主義的国際秩序のアジアへの拡大」という使命があると訴えている。それが「日本の国益であるだけでなく、日本の歴史的使命である」からだ。

経済安保を論じた最終章では、先端技術を「知り」、中国に機微技術を出さぬよう「守る」政策と、科学技術を安保に「育て、活かす」政策を説く。

量子やバイオなど世界最高の民生技術がありながら、政府は把握しておらず、安保に活用する仕組みも予算もない。戦後3四半世紀の間、科学技術と安全保障が断絶したため、日米同盟下でも安全保障面の科学協力は完全な失敗となった。

その原因として、西側主要国で日本だけがイデオロギー的分断から国内冷戦が続く特殊事情がある。左傾化が激しい日本学術会議など学術界は、軍事に拒絶反応を示しているからだ。防衛費5兆円と比べ遜色ない年間4兆円の科学技術予算がありながら、軍事的安全保障研究には協力しないと言い続ける。

しかし、インターネットのように軍事技術が科学技術を牽引(けんいん)しており、軍事と民生の区別をつけることは困難だ。筆者の指摘通り、学術界は軍事研究を忌避すべきではない。新型コロナウイルス禍でワクチンを国産技術で開発できず、供給が遅れ、欧米の製剤を多額の税金で購入させられた〝ワクチン敗戦〟を忘れてはならないだろう。欧米が開発に成功したのは、国家安全保障の軍事研究からだった。

筆者が力説する通り、モデルナ製ワクチンの早期開発を導いた米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)のような研究拠点が必要だ。優れた研究を目利きし、資金を流し、国防と経済成長に寄与させるべきだ。

最先端科学技術で国の安全を守るのは世界の常識である。公的研究機関に所属する日本の研究者は、日本社会に貢献する意識を持ってほしい。

評・岡部伸(論説委員)

産経新聞
2022年2月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク