真田VS徳川…命運を賭けた二度の「上田城合戦」を描いた戦国小説『真田の兵ども』

インタビュー

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真田の兵ども

『真田の兵ども』

著者
佐々木 功 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758413961
発売日
2021/12/15
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

佐々木功の世界

[文] 角川春樹事務所

 慶長五年に火蓋が切られた、真田家の命運を賭けた争い「上田城合戦」。結果、真田が徳川の大軍を二度にわたり破った。
 その戦闘を真田サイドから描いた小説『真田の兵ども』を刊行した作家・佐々木功氏に、作品への思いを伺った。

 ***


佐々木功

真田家を描くという難題に挑んでみました

細谷正充(以下、細谷) 本日は新刊の『真田の兵ども』を中心に、お話を聞いていこうと思います。

佐々木功(以下、佐々木) よろしくお願いします。

細谷 デビュー以来、戦国小説を書き続けている佐々木さんですが、今回「真田」を書こうと思ったのは、どのような意図や想いがあったのでしょうか?

佐々木 最終的にこのテーマに落ち着いたのは、編集さんとの打ち合わせの中でした。いくつか題目をピックアップしていただいたり、僕の方からも出したりしたんですけど、その中で一番ピンときた題材だったのです。

細谷 ピンときたというのは、どういう意味でしょうか?

佐々木 戦国ファンで、真田に対して悪い印象を持っている人っていないと思うんですよね。その反面、書き尽くされた感があるので「大丈夫かな?」という気持ちも正直あったんです。だからこそトライしてみたいと思いました。

細谷 読んでみて、独自の「真田もの」になっていると思いました。この時代の話で真田信幸(信之)をクローズアップしているのは珍しいですね。

佐々木 書いていて、自分が読んだ色々な作品が頭の中を走馬灯のように駆け巡ったのですが、一番が池波正太郎先生の『真田太平記』なんです。池波先生は、真田信幸の描き方が「最終的に真田を存続させた人」というものだったので、あのイメージに若干近い形になったのかなというところですね。

細谷 読み始めたときは、話がどこに向かうのかと若干思ったんですが。

佐々木 (笑)。実はこの話は、原形となった作品があるんです。昔話になってしまうんですが、細谷さんと『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』の対談をしたときに、「何か他に書いてますか?」という話になったの、覚えてますか?

細谷 覚えています。

佐々木 覚えてますか、嬉しいですね。その時に、小山評定の事を書いていますって言ったんです。その内容は、真田忍びが昌幸と一緒に上田に帰っちゃうんですけれども、その時に一人だけ取り残された忍びの・瘻「が悪戯心というか、はねっかえりの心で小山評定をかき乱しちゃおう、ぶっ壊しちゃおうって暗躍するものなんです。結局それは失敗するんですけど、実はそれはそのまま真田昌幸・信繁(幸村)父子の考えているところで、それでいいぞと、そういうオチになる話だったんです。書いている途中でまだ未熟だと止めちゃったんですけれども、今回、真田の話に行きついたときに、その話が頭の中に残っていて、そこから本書の序盤を書いて行っちゃったんですね。その未完作のときから真田十勇士を上手く取り込んでいきたいと思っていたので。真田昌幸あり、信繁あり、信幸あり、さらには真田十勇士の面々が出てきて、最後は真田の家に一つになって意思を統一していくみたいな流れに自然となってしまったっていうのが、今回の作品です。

現代において、真田十勇士をどのように活写するか?

細谷 これは真田十勇士が集結するまでの物語でもありますよね。今、真田十勇士を書こうと思うと、かなり難しいんじゃないですか。

佐々木 今回「真田家」と共に、もう一つ書こうと思ったのが・新・真田十勇士・なんです。僕が子供の頃、真田十勇士ってみんなに浸透していて、猿飛佐助とか霧隠才蔵とかって、子供たちも知っているヒーローだったんですよね。だけど、今の子供たちってあまり猿飛佐助とか知らないんじゃないか。ゲームとかで名前は知っているけど、物語としては知らないんじゃないかって思いまして、「じゃあ新しい形で真田十勇士を書きたいな」っていうのが、その動機ではありますね。

細谷 逆に読み慣れている人だと「どんな風に出してくるんだろう?」っていう興味があります。筧十兵衛が筧十蔵だとか、伊賀の賽っていうのが霧と共に出てくるので霧隠才蔵だなとか。伊賀の賽が服部家を見限ってしまうのは、現代的ですよね。自分の働いている会社が、もう駄目だという感じで(笑)。

佐々木 戦国に生きてきた忍びには、徳川の下の伊賀同心・服部家では面白くないと家を出てしまうような奴もいるだろうと思って、あのキャラクターを書いてみたんですね。奴が真田についてみて、「こういう生き方もあるんじゃないか」って生まれ変わる。伊賀の賽も、主役の一人のように書いてみました。

細谷 色々な考えを持っている人たちが集まれる場所になる。それがこの作品の真田家の魅力だと思うんですよ。面白いのは(主役の一人の)源吾という若者ですけど、真田側の人間で彼が一番未熟ですね。

佐々木 大人になり切れていないです。トラウマを持っているキャラクターで、あとは、どっちつかずの任務を与えられて半分拗ねているところもある。私の中では彼のイメージは大映ドラマです。『少女に何が起ったか』とかですね。自分の出生の秘密が分からないまま懸命に生きていて、最後の最後に分かってドーンと覚醒するっていう。

細谷 ああ、なるほど! 大映ドラマっていうのは分かりませんでした(笑)。

佐々木 多分、分からないと思いますが(笑)。そういうキャラにしてみようかなと。悩み、苦しみ、少しずつ成長して、最後の最後に自分がどういう宿命の人間だったのか、どういう想いをかけられて生きて来たのかっていうのを知って、新たな大人に生まれ変わるんです。

歴史上の謎に満ちた第二次上田合戦とは?


細谷正充

細谷 中盤の大きな山場が第二次上田合戦で、この場面が非常に面白いですし、この話を持ってきたというのがまた佐々木さんらしいなと思ったんですよ。というのは第二次上田合戦って、有名な割には実際に何をどうやって戦ったかよく分かっていないじゃないですか。

佐々木 その通りなんです。色々と調べたんですけど、実際の戦いの事ってほとんど分かっていない(笑)。軍記物みたいな本にもちょろっとしか書かれていない。第一次上田合戦の事は結構書かれているんですけど。

細谷 そうですよね。

佐々木 戦闘については実際にあったのか無かったのか分からないぐらい書かれていないんです。それで「どうやって書こうかな?」って、迷ったんです。でもやっぱり城に引き寄せて叩くっていう風にしないと面白くないので、第一次上田合戦を踏襲するような形にズルズル徳川方が引きずり込まれちゃったっていう流れにしてみました。あとは、その中にもう一つ忍びの戦いがあって、源吾にとっても大きなイベントになるようにしました。戦闘は全くの創作というか、こんな風にという願望ではありますね。

細谷 本書は第二次上田合戦があって、関ヶ原の戦いがあって、という感じで大きな山場を二つ作り、それで歴史の流れを捉える形になっていると思います。時間軸的にはそんなに長いわけではないですけど、真田の歴史を読んだみたいな気分にさせてくれる。そこはもう、佐々木さんの力だと思います。

佐々木 ありがとうございます。最初は第一次上田合戦と第二次上田合戦の話にしないかというのが、編集さんとの話でした。でも、第一次を全部書いてその間の時間があって更に第二次っていう形になると量も増えてしまうし、ダラーっとしてしまいます。それなら第二次の方を完全にメインにして、第一次は回想とか、第二次を書く時のエッセンスにして盛り込んでいこうと。あと最終的に、昌幸と信繁は追放されなきゃいけない。そうしないと区切りがつかないので、そこまでの中にこれまでの昌幸とかの出来事や歴史を盛り込んでみたような形ですよね。あまり長く書いちゃうと上・中・下巻組レベルの分量になってしまうので、こんな書き方になりました。

細谷 その流れの中に、真田十勇士が次々出てくる。

佐々木 真田十勇士はキャラクターがみんな立っていますから。どういう風に使おうかって考えて、次々ハマっていったっていうのがありますね。

細谷 あまり活躍させちゃうと十勇士の方がメインになっちゃう。

佐々木 なのでその辺は次に取っておくというか、今回は登場させるだけってことに。

細谷 そうすると、この後に書く予定というのは?

佐々木 続きですか? それは……この作品が評判良ければ、こちらからお願いしたいぐらいですけど(笑)。続きを書くとしたら、大坂夏の陣までの内容になってきますね。書いたら書いたで、忍者大活劇小説になるんじゃないかって、勝手に妄想しています。

協力:角川春樹事務所

角川春樹事務所 ランティエ
2022年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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