香港への思いを募らせる42年ぶりのオリジナル復刊

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香港 旅の雑学ノート

『香港 旅の雑学ノート』

出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309030180
発売日
2021/12/22

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

香港への思いを募らせる42年ぶりのオリジナル復刊

[レビュアー] 都築響一(編集者)

『香港 旅の雑学ノート』と聞いて遠い目になるひとがきっといるはず。初版が出たのが1979年、香港が中国に返還される18年も前だった。そのあと新潮文庫にも収められているが、このほど42年ぶりにオリジナルの判型で復刊された。やっぱりこのサイズ、このレイアウトじゃないと伝わらないものがあると思うので、今回の復刊は個人的にすごくうれしい。

 旅も好きだし旅の本も好き、という僕みたいな人間はたくさんいるし、それぞれの年代に決定的な影響をあたえた旅の本、というのもある。『深夜特急』『全東洋街道』……そしてこの「雑学ノート」シリーズの山口文憲さんの香港編と、玉村豊男さんのパリ編を、当時学校を出たばかりの僕は何百回読み直したかわからない。そういう本がつくりたくて出版の世界に入って、けっきょくそういうのとはぜんぜん別種の旅の本をつくるようになるとは、そのころ夢にも思わなかったけれど。

「床屋、飲茶、警官、やくざ、フロ屋、移民、代筆屋……」と帯には登場人物たちが列挙されている。ご承知のようにあれから香港はものすごく変わってしまい、ここに描かれている街の風景もずいぶん消えてしまったけれど、お上が変わっても自分たちの暮らしは変わりやしない、香港人のしぶとさというのも確実に残っている。

 ニュースだけ見ていると香港はもう終わったみたいな印象すら受けかねないが、ここで読める40年前のホンコン・スピリットは、いま行ってもきっと見つかるはず。コロナで行けないからこそ、香港への思いを募らせてくれる本だし、香港にかぎらず、帯に書かれているように「大通りと宝石店ではなく裏通りともの売り」や「ペキンダックや満願全席ではなく屋台と買い食い」をひたすら眺める旅にまた出られる日への待ち遠しさを、苦しいほどかき立ててくれる本でもある。

新潮社 週刊新潮
2022年2月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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