高齢者=お荷物は大間違い。理知的な視点で回想する怒涛の記録と提言

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  • 母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記
  • 介護のうしろから「がん」が来た!
  • ドーバーばばぁ

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高齢者=お荷物は大間違い。理知的な視点で回想する怒涛の記録と提言

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

 私事で恐縮だが、去年、父を亡くした。約四年のリモート介護は苛立ちとため息の連続で、「解放」された今もわだかまりに似た痛みが時折胸を訪れる。

 50代独身男の介護奮闘記、とサブタイトルが付けられた松浦晋也『母さん、ごめん。』は、介護の最中の方にも、これからの方にもぜひ手に取ってもらいたい一冊。同居している八十歳の母に認知症の気配が見えたとき、「年齢なりのうっかり」と判断してしまったことが「介護敗戦の始まりだった」と回想する著者の、怒涛の二年半の記録だ。

 公的サービスの存在を知らなかったため全てをひとりで抱え込み、ストレスで幻覚を発症してしまったこと。外部からのサポートを受けられるようになったものの、食事や排泄のケアに苦労し続けたこと。リハビリパンツ(おむつ)を拒絶する母に「私がはけば、はいてくれますよねっ」とその場で下着を脱いで着用してみせたエピソードなど、小さな笑いを誘う出来事も披露されているが、過剰な演出を加えず書かれているところに著者の人柄を感じる。科学ジャーナリストならではの理知的な視点で、高齢者=お荷物、という考えの間違いを指摘し、社会の分断を防ぐための方策を提言する章も読みどころだ。

 介護は「自分事」を後回しにさせる。篠田節子『介護のうしろから「がん」が来た!』(集英社文庫)は、母親を介護老人保健施設に入れて間もなく自身の体に乳がんが見つかったという出だしで始まる。落ち込まず騒がず情報を収集し、エネルギッシュかつさっぱりと闘いの日々を進んでいく著者の足取りが格好いい。手術が終わったと思ったら母親が老健でトラブルを起こし、新たな施設探しに奔走する後半の展開は身につまされてしまった。

 中島久枝『ドーバーばばぁ』(新潮文庫)は、介護、看護、怪我などそれぞれの事情を抱えながらドーバー海峡リレー横断泳に挑戦した中高年女性六人のドキュメンタリー。始めるのに遅すぎることはない、チャレンジは大事、とは言わない、静かな元気をくれる冒険録だ。

新潮社 週刊新潮
2022年2月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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