『ジョン・レノン 最後の3日間  The Last Days of John Lennon』ジェイムズ・パタースン著(祥伝社)

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ジョン・レノン 最後の3日間

『ジョン・レノン 最後の3日間』

著者
ジェイムズ・パタースン [著]/加藤 智子 [訳]
出版社
祥伝社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784396617721
発売日
2021/12/01
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

『ジョン・レノン 最後の3日間  The Last Days of John Lennon』ジェイムズ・パタースン著(祥伝社)

[レビュアー] 森本あんり(神学者・東京女子大学長)

悲劇へ至る道 光と影

 奇妙な本である。「最後の3日間」という題なのに、まず四百頁(ページ)をかけてビートルズの発祥から終焉(しゅうえん)までを詳細に辿(たど)っている。その説明を探すのだが、本書には「まえがき」も「あとがき」もない。いきなり始まっていきなり終わるのである。その「放り出された感」こそ、優れた伝記作家の狙いなのかもしれない。

 私の年代でビートルズを聞かずに育った人はいないだろう。どの曲も、自分の青春時代と重なって記憶されている。その日々を思い返す息苦しさと、当時は知る由もなかった仲間内の愛憎。ビートルズが存在しなかった世界を描いた映画もあるくらいで(それはそれで面白いのだけれど)、彼らが残した巨大な文化史的影響は今も消えることがない。

 光が強ければ陰も濃い。マーク・チャップマンは、かつて崇拝していたジョンの「イエス・キリストより人気がある」という発言に怒り、殺害の二日前にやってきた。英国では問題にならなかった発言だが、折悪(あ)しくアメリカでは福音主義が急速に台頭していた。彼がホテルの部屋に残したのは、「ヨハネ(ジョン)による福音書」が開かれた聖書で、そこには真っ赤な字で「レノン」と書き加えられていたという。そして彼は、自分が殺した男の化身となった。

 ビートルズを壊したのはヨーコだ、と当時から言い伝えられてきた。他の妻たちが従順にサンドイッチを渡して退出するのに、彼女はアンプの上に居座ったままで周囲を苛立(いらだ)たせる。この東洋人アーティストは、伝統的な妻の役割にはまることをきっぱりと拒否したのである。

 ベトナム反戦を訴える彼らは、時の政府をも苛立たせた。二人の国外追放を画策したニクソンだが、二人はウォーターゲート事件の公聴会に出席してその大統領の失墜を見た。やがてヨーコが妊娠し、ようやく人道的配慮で彼らは退去を免れる。悲劇の五年前のことである。生きていたら今年八二歳。加藤智子訳。

読売新聞
2022年2月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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