<東北の本棚>傑物の華麗な仕事追う

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木村よしの おんな記者伝

『木村よしの おんな記者伝』

著者
町田 久次 [著]
出版社
郁朋社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784873027425
発売日
2021/10/26
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>傑物の華麗な仕事追う

[レビュアー] 河北新報

 木村よしのという女性をご存じだろうか。男性優位社会の明治末期、福島民友新聞社で女性の奮起を掲げ、健筆を振るった記者だ。当時、新聞社と言えば「男性の聖域」。肩身の狭い立場に屈せず、過激な論調と柔らかな視点で、鮮やかに世相を斬った「無名のハンサムウーマン」と言うべき傑物だ。

 福島県会津美里町出身の著者もまた、同社に身を置き、記者や経理局長を務めたOB。本書は、よしのが手掛けた連載の数々を掲載し、華麗な仕事ぶりと強烈なジャーナリズム精神に迫る。足かけ10年近く、膨大な資料を丹念に集め、「大先輩」の生きざまを追った力作評伝だ。

 1911年5月、22歳で入社後間もなく書き上げたのが、福島市の民間社会福祉施設を訪れた「授産場訪問」。夫に捨てられ「気狂い」となり、施設で暮らす女性に「世に自意識のない女ほど哀れなものはない。故に無意識に生き無意識に滅びて行く憐(あわ)れの女性には、なほさら幸福なれよと祈らざるを得ぬ」と同情を寄せる。卓越した表現力と繊細な感受性が光る一文だ。

 活動写真の弁士、俳優、事務員など多様な職業の女性を取り上げた「女から見た女」は、よしのの真骨頂だ。序文では、当時盛んだった婦人解放運動を「旦那様の袂(たもと)から芸者屋の玉代や怪しい手紙を見つけて、胸倉を取った時の意気と権幕(けんまく)さえあればわけの無いこと」と言い放つ。天下国家をわが物顔で語っていた殿方も、この一言には思わず尻込みしたに違いない。

 彗星(すいせい)のごとく論壇に現れたよしのは、翌年1月の署名記事を最後に姿を消す。著者は、よしのが劇団員を経て、東京都結婚相談所の職員に転職した事実を探り当てる。よしのはなぜ記者になり、何を伝えたかったのか。激動の時代を駆け抜けたよしのの言葉は、現代に生きる女性たちを勇気付ける福音となるだろう。(江)
   ◇
 郁朋社03(3234)8923=1100円。

河北新報
2022年2月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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