友井羊『放課後レシピで謎解きを』を吉田大助はどう読んだか。「秘密」の中身以上に、「秘密」を取り巻く心情を

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友井羊『放課後レシピで謎解きを』を吉田大助はどう読んだか。「秘密」の中身以上に、「秘密」を取り巻く心情を

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

「秘密」の中身以上に、「秘密」を取り巻く心情を

 友井羊の『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』は、吃音症(きつおんしよう)の高校生の少女・沢村菓奈(さわむらかな)が主人公=探偵役だった。彼女は名推理を思い付いてもなかなか「言えない」。〈普通にできるはずのことができない状態を、できる側が想像することは難しい〉。だが、「できない」彼女だからこそ、想像「できる」ことがある。最終話における名犯人との対決は、ホームズVS.モリアーティばりの高揚感だった。
 同じ高校を舞台にした姉妹編『放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密』には、新たな語り手が二人いる。二年生で初めて同じクラスになった、落合結(おちあいゆい)と荏田夏希(えだなつき)だ。偶然にもこの春から調理部に入部した二人が、料理にまつわる様々な事件に巻き込まれていく。
 サブタイトルの「うつむきがちな探偵」は、結を指している。彼女は極度のあがり症、社交不安障害なのだ。事件の真相を見抜いても、「名探偵みなを集めて『さて』と言い」なんてことは到底できない。しかし、夏希一人に対してであれば言える。超行動派ゆえにトラブルメーカーでもある夏希は、真相を聞き届けた後でどんな行動を起こすか? 全八話は謎のバリエーションはもちろん、事件の顛末のバリエーションにもこだわっている。
 夏希――「駆け抜ける少女」には、「秘密」が埋め込まれている。「秘密」の中身を、おそらく中盤あたりで見抜く読者もいるかもしれない。本作は、「秘密を知る」という推理小説的快感以上に大事にしているものがある。第三者にとっては「秘密」を抱えた存在と、当事者にとっては「秘密」を抱えた自分と、どう付き合うかという葛藤の描写に主眼を置いているのだ。あえて「秘密」が開示される驚きを前倒ししたうえで、「秘密」を取り巻く登場人物たちの心情を重視した点に、著者の誠実さが光る。と同時にその選択は、一人の人間の内なる複雑さ、他者と共にあらざるを得ない人間存在の弱さと強さを表した「小説」として、本作を一回りも二回りも大きなものにしたと思うのだ。

吉田大助
よしだ・だいすけ●ライター

青春と読書
2022年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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