世界を変えた100のポスター(上)(下) コリン・ソルター著

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世界を変えた100のポスター 上

『世界を変えた100のポスター 上』

著者
Salter, Colin, 1957-角, 敦子, 1959-
出版社
原書房
ISBN
9784562059720
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

世界を変えた100のポスター 下

『世界を変えた100のポスター 下』

著者
Salter, Colin, 1957-角, 敦子, 1959-
出版社
原書房
ISBN
9784562059737
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

世界を変えた100のポスター(上)(下) コリン・ソルター著

[レビュアー] 太田和彦(作家)

◆20世紀美術の成果 堪能

 ポスターが絶大な効果をあげた百の実例を、その図版とともに解説した本。十九世紀末、ロートレックが描くキャバレー踊り子は夢をかき立て、ミュシャは人気画家に。カラー印刷が進歩した一九二〇〜三〇年代にポスターは黄金時代を迎え、コカコーラはプレゼントを配り終えた赤服サンタがコーラで一息つくポスターを毎年作り、クリスマスに飲む習慣を定着させた。

 ルーズヴェルトは大恐慌下のアメリカを連帯させようと、ニューディール政策の一環「連邦美術計画」により「アメリカを見よう」シリーズで国立公園など数々の美観を描いて旅行喚起にも役立てた。

 アメリカで最も有名な「アンクル・サム」の募兵ポスターは、星柄シルクハットの目つき鋭い男が「軍隊は君が必要だ」と真っすぐに指さし、以降定番化する。第二次大戦下、ロンドン大空襲に備えて作られた文字だけのポスター「平静を保ち、普段の生活を続けよ」は苦難を乗り越える気構えを醸成した。

 演劇「ハムレット」のポスターは頭蓋骨モチーフが通例になり、その描き方に演出家の意図が現れて興味深い。

 毛沢東やスターリンは、立ち上がる労働者が仰ぐ太陽の位置に自己の肖像を置いた。

 ゲバラのポスターはあらゆる反体制のシンボルとなった。大統領候補指名獲得に、ポップアート風に描かれたオバマの注文は、標語「進歩」を「希望」に変えることだけだった。

 ポスターの特色は、一枚でシンプルに表現するところにあり、社会的主張も、映画や観光地の魅力も商品宣伝も何でもできた。また一点制作絵画とはちがう大量印刷された目的のある美は、二十世紀美術の新しい成果となったが、私見では今のデータ通信の時代になってポスターアートは絶滅したと思う。

 この本は、ポスターは人間知性の豊かさ、美の象徴化、批評精神、風刺諧謔(かいぎゃく)、欲望の肯定、そして生きる喜びにあふれていることを明快に示す。読みやすい解説と美しい図版再現、綿密なブックデザイン、すべてが楽しめる。

(角敦子訳、原書房・各2640円)

歴史作家。『歴史を変えた100冊の本』『世界を変えた100のスピーチ』(上)(下)など。

◆もう1冊

デイヴィッド・ライマー著『ポスター芸術の歴史』(原書房)。井上廣美訳。

中日新聞 東京新聞
2022年2月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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