売れっ子芸人は敢えてキャスティングしない――17年続く人気バラエティ『ゴッドタン』は何が違うのか

対談・鼎談

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敗北からの芸人論

『敗北からの芸人論』

著者
徳井 健太 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103544418
発売日
2022/02/28
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ゴッドタン』の役割、とは?

[文] 新潮社


左からオークラさん、徳井健太さん、佐久間宣行さん

徳井健太×佐久間宣行×オークラ・対談「『ゴッドタン』の役割、とは?」

「負けを味わった奴だけが売れる」をテーマに、どん底から這い上がった21組の芸人の生き様を、新刊『敗北からの芸人論』に熱く綴った徳井健太さん。そんな徳井さんの再ブレイクのきっかけともなったお笑い番組『ゴッドタン』のプロデューサー・佐久間宣行さんと、同番組の放送作家で自伝的エッセイ『自意識とコメディの日々』がヒット中のオークラさんが、『ゴッドタン』はじめテレビバラエティのこれからについてを熱く語り合った。

 ***

徳井 ニューヨークやシソンヌ、ダイアンに5GAPなど、『ゴッドタン』によく出演するコンビについても書かせてもらいました。

佐久間 正直な話、『ゴッドタン』には僕やオークラさんはじめスタッフが本当に面白いと思う芸人さんしか出ていないから、褒めるところだらけだったでしょう?

徳井 今の言葉、みんな嬉しいだろうなぁ。佐久間さんのラジオに出させていただいたとき、相方の吉村を『ゴッドタン』に呼ばない理由も話してくれましたよね。


佐久間宣行さん

佐久間 『ゴッドタン』では、ゲストで来る芸人さんのキャラクターの「世間に知られている部分」をMCの3人がひっくり返して、その人自身も気がついていなかったり、まだ見せていなかったりする魅力が見えたときに盛り上がる、というのが一つのパターンとしてあるから、すでに他の番組でうまくいっている人が来ると、例えば無理に毒舌になるとか、損しちゃう可能性が高いんだよね。

オークラ 吉村くんの場合は、彼の最大限の面白さが別のバラエティ番組で発揮されてすでに活躍しているから、今はそれで十分なんですよね。

佐久間 ちょっと歴史的な振り返りをしちゃうと、『ゴッドタン』が始まった2005年には、地上波のお笑い番組も結構たくさんあったんだけど、その少し後から10年間くらいは、ほぼなくなった。だからその間は、「芸人の、まだ見せていない別の魅力を見せる」上で、色々な笑いのパターンができたのだけれど、いまはお笑い番組がすごく増えたこともあって、『ゴッドタン』をどういう番組にしていきたいのか、その選択を迫られている時期なんだと思っている。少し前の収録でも、如実に感じることがあって。

徳井 どんな企画のときですか?

佐久間 「コンビ愛確かめ選手権」に、ぼる塾、ラランド、相席スタートが出てくれた時。めちゃくちゃ面白くて盛り上がったんだけど、「あれ、この3組って超人気者じゃん」って。

徳井 確かに、『ゴッドタン』だともう少し“劇薬”が欲しくなっちゃうかも。

佐久間 彼らのこの面白さは別の番組で見たことがあるのに、『ゴッドタン』でもやる意味があるのか、『ゴッドタン』の個性って昔は違っていたよな……と、ふと我に返るような気持ちになって、オークラさんと真剣に話し合いました。


オークラさん

オークラ つい先週の出来事です(笑)。

徳井 うわー、でもそれってかなり難しいことですよね……。

オークラ 僕や佐久間さんのなかで、『ゴッドタン』は反体制である、という意識がもともとあったんですよね。

佐久間 そうそう、ゲリラ番組だと思って作っていたから(笑)。特に「マジ歌選手権」に顕著なんだけど、番組開始当初から出てくれていた芸人さんが超売れっ子になった今、結果的に「人気芸人大集合バラエティ」に見えちゃう側面もあるという……。

徳井 答えは出ているんですか?

佐久間 今のところ、あのシェイク・ヒロシで30分やるかどうか考えていて、とりあえず昔みたいにいろいろ挑戦していこうと思っているところかな。

オークラ 若手のスタッフがするような話を、50歳手前のおじさん同士で熱くしています(笑)。

徳井 お二人とも、やっぱり達人ですね。めちゃめちゃ格好いいです。

オークラ 徳井くんはこれからどうなっていきたいの?

徳井 6、7年前に桂三度さんから「もう売れたら?」と言われたことがありました。これはニューヨークの章でも書いたのですが、面白いのに劇場のお客さんにはウケなかったケンドーコバヤシさんが、ある日突然、お客さんにもウケるようになった。その理由を三度さんは「ケンコバは売れたいと思ったんちゃう?」と言ったんです。僕はそれを、「面白いと思われたい」気持ちが強かったケンコバさんが、たとえ「イタい」と思われても、売れるためにシフトチェンジしたということかな、と考えました。


徳井健太さん

佐久間 昨年のM-1グランプリで優勝した錦鯉しかり、売れる人には共通して、イタさというか、かわいげがあるよね。

徳井 そうなんです。だから、「芸人が芸人の批評なんかして徳井はイタいな」と僕を攻撃する声、特に芸人からの批判が気にならないと言ったらもちろん嘘になりますが、僕は僕の「芸」を信じていきたいなと。

佐久間 うぜーなって思われるということは、その人の視界に入ったということだよね。

オークラ 僕もそう思います。周りが足並み揃えているところから一歩踏み出さないと、エンタメ界では根をはれないから。

徳井 ようやく、今より一つ上のステージに踏み出せるチャンスかもしれないって思うようにしています。

オークラ でもそこには強敵ばかりが揃っているけどね(笑)。

徳井 久しぶりにピリピリできるのは嬉しいです。頑張ります……!

新潮社 波
2022年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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