『岸田政権の新しい資本主義で無理心中させられる日本経済』
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スジ悪政策が並ぶのは何故か グダグダ政権を徹底批判する快著
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
岸田政権のグダグダで方針のはっきりしない政策を徹底的に批判する快著だ。ワイドショーなどマスコミでは、岸田政権への批判の声は聴かれない。例えば新型コロナワクチンの追加接種は、先進国で断トツに遅れている。あわてて「一日100万回接種」を打ち出すが、オミクロン株は猛烈に拡大し、すでに手遅れだ。
また経済対策もスジ悪だ。ガソリン価格が上昇して家計を直撃していることは国民的な悩みだろう。だが岸田政権は、財務省や官僚のいいなりで、直接にガソリン価格を引き下げる減税ではなく、元売り各社への補助金を採用した。著者が厳しく指摘しているように、官僚は補助金の方が自分たちの権益を増やすことができる。補助金の匙加減で、関連業界への官僚の影響力が高まるからだ。まさに官僚のための政策であって、国民に顔が向いていない。ガソリン価格はいっこうに下がらないままだ。さらに財務省の影響が強く、増税臭がプンプンだ。安倍政権では消費増税は10年棚上げと明言していた。しかし岸田政権では、党税調会長に岸田総理の従兄弟で、財務官僚出身の宮沢洋一氏を起用し、宮沢氏は消費増税の可能性を言い出している。
また安全保障や外交でも岸田政権のリスクは大きい。岸田総理の出身派閥である宏池会の歴史を遡り、この派閥がいかに多くの官僚出身者で占められているか、また中国寄りかを解説した箇所は、日本政治の今後の派閥力学を考える上でも有益だ。
特に林芳正外務大臣の登用は、中国寄りのメッセージを米国など同盟国に与えてしまった深刻なミスだ。米国の岸田政権に対する不信は、日米首脳会談がなかなか行われなかったことで自明である。「新しい資本主義」という具体的な中身に乏しい経済政策のビジョンや中国びいきスタンスをみると、岸田政権は過去の民主党政権に近い。このままでは悲惨な結果を日本経済にもたらしかねない。本書のメッセージは実に鮮明だ。