「田舎の片隅で何者にもなれず、いつもふてくされていた」作家の、創作の源泉が詰まった一冊とは
エッセイ
ゼロからの連鎖 『連鎖犯』著者新刊エッセイ 生馬直樹
[レビュアー] 生馬直樹(作家)
ある幼い姉弟が誘拐されるところから物語は始まります。
その誘拐事件を軸にして、様々な人物が登場し、それぞれの問題と向き合いながら話は進んでいきます。若いシングルマザー、田舎の刑事、毒舌コメンテーターなど。
やがて時間は飛んで、七年後の殺人事件。犯人は誰か、過去の誘拐事件と現在の殺人事件には一体どんなつながりがあるのか―。
あらためてこの作品を振り返ってみると、書き手が平凡だからなのか、出てくる人たちもわりと普通だな、と思いました。名探偵も超能力者もダークヒーローもいない。けれど、みな胸に大切な物語を秘めています。ズルさや弱さがあって、それに負けないくらいの愛や正義もある。彼らを描くことで、自分を見つめ直したりもしました。小説を書くって本当に不思議な作業ですね。
舞台は僕の住んでいる新潟県で、実在する土地もいくつか出てくるので、ローカル小説としても楽しめるかもしれません。かつて通学や通勤、ドライブなどで頻繁に通った場所もあって、懐かしさに浸りつつ、同時に小説を書き始めたころのことを思い出しました。
仕事や人間関係がうまくいかず、夢見る気持ちも希薄だった二十代前半。質素な田舎町の片隅で何者にもなれず、いつもふてくされていました。何か変えたい、何かやってみよう。最初の衝動がそれでした。とくに文学青年でもなかったはずの自分が、なぜ小説を選んだのか今でも時々不思議に感じます。
ともあれ、あのころゼロだった自分に、「なんでもいいから書きたい」という気持ちの1をプラスして、スタートを切りました。執筆歴は素人時代も含めると十数年になりますが、あのときの「書きたい」という気持ちは濁ることなく、今作の『連鎖犯』にもしっかり宿っていると思います。