東京生まれ、内地の地方都市育ちの作家が「北海道の自然に魅せられ」描いたミステリー『クラウドの城』

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

クラウドの城

『クラウドの城』

著者
大谷睦 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914493
発売日
2022/02/24
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

北海道ライフ 『クラウドの城』著者新刊エッセイ 大谷睦

 はじめまして、大谷睦(おおたにむつみ)と申します。二〇二一年十月、第二十五回日本ミステリー文学大賞新人賞(日ミス)を受賞し、二〇二二年二月に『クラウドの城』でデビューいたしました。以後、お見知りおきください。

 訳あって、北海道をベースに内地とデュアルライフ(二拠点生活)を送っている。元々、私は北海道の人間ではない。東京生まれで、内地のある地方都市で育った。

 そんな私の北海道ライフのきっかけは、リタイアした父が二十数年前、北海道に建てたログハウスだった。終の住み処として、父は山奥のログハウスに母と共に移り住んだ。

 私は父が三十、母が二十九のときの子だ。五十歳を過ぎて、八十歳を超えた両親を何度も説得に赴いた。自然生活は満喫しただろう。何かあってからでは遅い。車の免許も返納しなければならない。暮らしやすい街中に移ってはどうか―。

 父は決して肯(がえん)じなかった。母は父の意思を容れた。結局、私が折れて、老親の世話に長期間、通うようになった。

 だが、年に数回も通ううち、いつしか私自身も北海道に魅せられてしまっていた。今では、北海道行きが待ち遠しい。

 何よりも、景観が素晴らしい。空気や水からして、もうすでに美味しい。米や野菜や果物も、肉や魚や乳製品も酒も菓子も、何もかもが信じられないほど旨い。人情もよい。落ち葉、騒音、駐車、内地と違い苦情もめったに言われない。

『クラウドの城』は、魅力的な北海道を舞台に選んだ。小説中では、北海道の美しい自然を、折に触れて描き込んだ。

 北海道の四季では、とりわけ紅葉の時季が美しい。

 取材で訪れた七飯町(ななえちよう)の大沼(おおぬま)の紅葉には圧倒された。作中の主人公と同様、カヌーで紅葉を見て回った。陸とは違って、鏡になった湖面から見る紅葉は、まさしく目に染みた。

 二〇二二年の秋も大沼を訪れたい。一瞬だけ紅蓮に燃え上がる鮮やかな紅葉を、再び目に収めたいと願っている。

光文社 小説宝石
2022年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク