『クラウドの城』
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北海道ライフ 『クラウドの城』著者新刊エッセイ 大谷睦
はじめまして、大谷睦(おおたにむつみ)と申します。二〇二一年十月、第二十五回日本ミステリー文学大賞新人賞(日ミス)を受賞し、二〇二二年二月に『クラウドの城』でデビューいたしました。以後、お見知りおきください。
訳あって、北海道をベースに内地とデュアルライフ(二拠点生活)を送っている。元々、私は北海道の人間ではない。東京生まれで、内地のある地方都市で育った。
そんな私の北海道ライフのきっかけは、リタイアした父が二十数年前、北海道に建てたログハウスだった。終の住み処として、父は山奥のログハウスに母と共に移り住んだ。
私は父が三十、母が二十九のときの子だ。五十歳を過ぎて、八十歳を超えた両親を何度も説得に赴いた。自然生活は満喫しただろう。何かあってからでは遅い。車の免許も返納しなければならない。暮らしやすい街中に移ってはどうか―。
父は決して肯(がえん)じなかった。母は父の意思を容れた。結局、私が折れて、老親の世話に長期間、通うようになった。
だが、年に数回も通ううち、いつしか私自身も北海道に魅せられてしまっていた。今では、北海道行きが待ち遠しい。
何よりも、景観が素晴らしい。空気や水からして、もうすでに美味しい。米や野菜や果物も、肉や魚や乳製品も酒も菓子も、何もかもが信じられないほど旨い。人情もよい。落ち葉、騒音、駐車、内地と違い苦情もめったに言われない。
『クラウドの城』は、魅力的な北海道を舞台に選んだ。小説中では、北海道の美しい自然を、折に触れて描き込んだ。
北海道の四季では、とりわけ紅葉の時季が美しい。
取材で訪れた七飯町(ななえちよう)の大沼(おおぬま)の紅葉には圧倒された。作中の主人公と同様、カヌーで紅葉を見て回った。陸とは違って、鏡になった湖面から見る紅葉は、まさしく目に染みた。
二〇二二年の秋も大沼を訪れたい。一瞬だけ紅蓮に燃え上がる鮮やかな紅葉を、再び目に収めたいと願っている。